ここでの「プロレス」は、一見戦っているように見えるが台本通りに演技しているだけで、その勝敗は事前に決まっている、といった意味だと思います。そうだとすれば、「プロレス」は日本の政治制度の中における国会の役割を端的に示していることになります。

 日本の議院内閣制の下では、内閣は国会の多数派に立脚し成立、存続しています。たとえば成立する法律は内閣が提案し、議会の多数派である与党が賛成するもので、成立しない法律案の大部分は野党議員が提出し与党が反対するものです。多数派である与党側の議案は基本的に賛成多数、野党側の議案は反対多数というように、事前にその勝敗は決しているわけです。

 これ自体は日本に住まう我々にとっては当たり前のことではありますが、議院内閣制であれば必ずこうなるわけではありません。重要な条件としては、党議拘束が働いていること、つまり政党の方針に従って所属議員が議案への賛否を表明することと、政党制が安定していること、つまり政党の数が少なく規模も大きいことが挙げられます。言い換えると、政党の方針に所属議員が従わないことが日常的に見られたり、与党を構成する政党の数が多く中心政党の意向に他与党が容易に逆らえる競争環境となっていたりすれば、「プロレス」ではなく筋書きのない争いとなりやすいわけです。

 このような場合、予定されている勝敗の下で、与野党の論戦を見せることが議会の役割となっています。このような議会を政治学ではアリーナ型議会と呼んでいます。与野党の論争を人々に見せることが議会の機能となっているわけです。

 こうして論争を見た人々が、それをもとに選挙の際に判断し、次の与党が決まるという流れになりますから、「本当はどこで戦っていますか?」への回答は選挙ということになるでしょうか。議案が当然に成立するとしても与党にとっては政権が働いていることを示す場として国会は重要ですし、議案の成立を防げなくとも野党にとっては有権者からの支持を獲得するためのパフォーマンスの場としてやはり国会は重要なのです。

 もっとも、法律案などの形成過程では、実に様々な戦いが行われています。政府と与党の争い、与党内での争い、利害関係者による政府や与党、省庁への働きかけ、官僚組織内の争いなどです。それら全てが政治における戦いの場だと表現できるでしょう。

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