■仕事で書く文章はロジカルライティング中心 

 おっしゃるように、仕事で書く文章はロジカルライティング中心です。

 問題を示し(序論)、問題を分解して解明し(本論)、結果をまとめる(結論)ことは、ビジネスのみならず調査研究全般での文章の基本ですが、専門的な研究でなければこの順番で書くことよりも、ニュースのように主旨→要点と概要→補足情報や留意点という順に書くことのほうが多いはずです。

 

■「はじめ・なか・おわり」信奉でよいのか

 ところが国語教育では「はじめ・なか・おわり」という用語を、小学校低学年ならまだしも、高学年以降の学習者にも使わせるケースが、これまで散見されてきました。「はじめ・なか・おわり」は〝序盤・中盤・終盤〟とほぼ同義であり、役割(機能)でなく場所(位置)を説明しているに過ぎない用語です。

 意見文(主張文)でさえ、このように教えられてしまっては、たまったものではありません。仕事で困るだけでなく、大学・高校あるいは義務教育の間でも、アカデミックライティング、探究的学習、「総合的な学習」ですら大いに苦労します。

 ひどいケースでは「はじめ・なか・おわり・まとめの4部構成で書くとよい」と主張する人たちすらいます(※その人たちは、教科書の説明的文章教材を観察するとそのように見えることからそう主張しているのですが、そのことの是非をここで論じることは省きます)。「はじめ・なか・おわり・まとめ」というふうに呼んでしまっては、もはや、随筆や文学(もともとは漢詩の用語)の「起承転結」との区別すらつきません。

 感想を交えつつ洒脱なエッセイを書かせたいのか、冷静な分析に基づくファクトベースのレポートを書かせたいのか、これではその区別すらせぬまま一緒くたに教え込む国語学習に陥ってしまいます。

 

■「読書感想文」は国語科カリキュラムでなく、学校図書館・毎日新聞のイベント

 さて、「読書感想文」は全国の小中高校で取り組むところが多いので、まるで国語科のカリキュラムであるかのように思われているところがありますが、実は、学習指導要領国語科には「読書感想文」に取り組むことを指示する文言は皆無であり、国語科教科書にも読書感想文のことは、載っていても資料編に少しアドバイスがあるか、本編であれば読書に限らず一般的な「感想」についての書き方程度です。

 「青少年読書感想文全国コンクール」は、全国学校図書館協議会と毎日新聞社が主催している民間イベントであって、国語科カリキュラムとは関係がないのです。

読書感想文全国コンクール公式サイト

半世紀を超えて多くの児童や生徒に取り組み続けられている読書感想文。読書の感動を文章に表現することを通じて、読書の楽しさや素晴らしさを体験してもらい、子どもや若者たちの考える力を育んでいます。

https://www.dokusyokansoubun.jp

 

■平成29年版学習指導要領では、ロジカルライティングも重視している

 次に示す表は、上が小学校、下が中学校の学習指導要領国語科「書くこと」の「指導事項」と「言語活動例」です(※表形式に整理したのは舟橋)。これをもとに作られる各社の国語科検定教科書も、当然こうした内容を踏まえないと検定を通りませんから、充分ふまえて制作されています。

 「指導事項」とは、少なくともこれらの事項をその学年のうちに「身に付けることができるよう指導する」ものと定められている事項です。ご覧のとおり、引用、図表、グラフ、根拠の適切さ、論理の展開など、ロジカルライティングにも充分目配りした指導事項へと今は既に改められています。

 また「言語活動例」(灰色で示した部分)は、こういった活動を授業に取り入れ、多様な言語活動を国語科授業で行うよう示された例です。各学年ともアがロジカルライティングの系列、イ・ウは一部変則もありますがイが通信・あいさつ・連絡の系列、ウが文学的な創作の系列になっています。

 これらのどこにも「初めのうちは読書感想文等を書きます」というふうな定めが一切みあたらないことを、よくご確認ください。

 もし「初めのうちは読書感想文等を書く」という印象が国語科にあって、それが多くの人に説得力をもって受け取られているのであれば、そうした根強い慣行が学校現場に根付いている、ということになります

 もちろん、読書感想文を書くこと自体に罪はなく、学習指導要領外でもいろいろな活動に取り組むこと自体はよいことなのですが、その結果として「ロジカルライティングを習ったことがない」状態に陥っている教室があるのならば、それは、算数でいえば九九や通分を習わずに卒業しているようなもので、もってのほかということになります。

  

■「ロジカルライティングを教えない理由」はない

 以上のように、ロジカルライティングは、少なくとも言語活動例3本柱の1つを担う主要分野であり、小学校低学年のうちから、どの学年でも必ず教えなければいけないものです。教えない理由はありません。

 それなのにそのような印象をもたれているのだとしたら、それは、「書くこと」の指導が大変だからなのでしょう。つまり、児童生徒が執筆するには多くの授業時間が割かれ、また各児童生徒が下書きから清書まで取り組む間、教員は放課後等に何度も児童生徒の下書きを点検し、厖大な枚数の下書きを読んで授業準備に向かう必要があって、いきおい「読書感想文コンクール」等の作文コンクールに便乗する形で、長期休暇の宿題に回す形をやむなくとっているのではないか、ということです。

 とはいえ、それはロジカルライティングを教えない理由にはなりません。ロジカルライティングこそ、何をどのように書くべきかが誰にも明確であり、点検も簡単、指導も容易なのですから。

1年1年更新

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舟橋 秀晃/FUNAHASHI Hideaki,Ph.D.さんの過去の回答
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