「与えられた演習問題を解けたなら、ある程度は理解できたといえるだろう。では演習問題がない場合は、どうしたら自分の理解を確かめられるだろうか。いい方法はないか」というご質問ですね。

まず第一に、このような問題意識を抱くこと自体が非常にすばらしいと思います。結城は常々、学ぶ際には《自分の理解に関心を持つ》ことが大事であると思っていますが、「自分の理解の正しさを確かめる方法を求める気持ち」はまさに《自分の理解に関心を持つ》ことのあらわれであると思いました。

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では、自分の理解を確かめる良い方法には何があるかとなると、私がまず思いつくのは「自分が理解したことを人に説明する」という行為です。人に教える、みたいに大げさにする必要はなくて、純粋に「自分はこういうことを学んで、こういうふうに理解しているんだ」と説明するだけのことです。

もしもよく理解していたら、説明もスムーズに行きます。でもよく理解していなかったら、説明はスムーズに行きません。つまり説明がうまくできるかどうかによって、自分が理解できているかをある程度確かめることができます。

もちろん説明がうまくできたとしても、あちこち誤解している可能性は残るわけですけれど、そもそも説明ができないならば、学んだことが自分の中に構築できていないことになりますので、「あちこち誤解」以前の問題といえるでしょう。

実は最初の段階では、説明する相手の反応や理解はあまり必要ではありません。いいかえると、適当に相づちを打つ相手がいるだけでも十分ですし、なんだったら、ぬいぐるみ相手に説明してもいいくらいです。これはプログラマがよく行うデバッグの方法の一つでもあります。自分がプログラムの動作をよく理解しているかどうか確かめるために、テディベアやラバーダックや壁に向かって説明を試みるのです。

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もしも表面的な理解ではなくて、より深い理解が必要になるなら、話す相手を適切に選び、その相手に説明し、その相手からやってくる疑問に答えるという行為は非常にいい方法です。私がよくやるのは「数学ガール」のテトラちゃん(私が書いている数学読み物に登場する人物で、非常に熱心に話を聞くけれど、なかなか納得せず、気になることを質問してくる女性)相手に心の中で説明を試みることです。そうすると心の中のテトラちゃんが鋭い質問をしてくるので、それに納得のいく追加説明をするのです。「いつも心にテトラちゃん」は有効な方法です。そういえば、大学などで行われる「ゼミ」がまさにそれですね。

さまざまな人にきちんと系統立てて説明するというのは、もう数歩で「本を書く」ことにつながります。ですから私はしばしば「本を書くのは勉強するいい方法だ」と語ります。冗談だと思う人もいるかもしれませんが、私は本を書くことを通じてたくさんのことを学び、理解を深めました。本を書いている最中に、自分がいかに物事を理解していないかを理解することになりますが、逆にうまく説明ができたときには明確に「ああ、私はこのくらいのレベルまでは理解ができたのだ」という実感が得られます。そしてもちろんそれは大きな喜びです。「本を書く」まで行かなくてもブログ記事でも何でも「文章を書く」のはいいことです。

あなたの質問に「高校までの問題演習を軸として理解してきた勉強スタイル」という表現が出てきました。そういう方は少なくないと思います。そこでオススメの方法として「自分用の演習問題を自分で作り、それを解く」というものがあります。自分で演習問題が作れるというのは、自分の理解をはかる良い方法の一つということです。「自分で演習問題が作れる」ということは、「いま学んでいる対象を理解したならば、何ができるか(どのような問題が解けるはずか)」を理解しているということですから。

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あれこれと話しましたが、重要なポイントがあります。それは、どのような方法を採るにあたっても「わかったふりをしない」という態度です。「よくわかっていないけれど、わかったことにする」という態度を取ってしまうと、上で述べたどの方法も役に立ちません。その一方で、ある程度まではわかっているのに「なにもわかっていない」と考えすぎるのもよくありません。「わかったふりをしない」というのは過剰な謙虚さが必要だといっているのではなく、自分が理解しているかどうか、自分がどのくらい理解しているかをできるだけ客観的にとらえようとする態度をもちましょうといってるのです。

しかし、あなたのご質問を読む限り、あなたが「わかったふりをしない」態度を持っていることは容易に想像がつきますので、きっと大丈夫ですね。

まとめます。

  • 自分が理解したことを人に説明するのは、自分の理解を確かめるのに良い。

  • 深い理解を求めるなら、説明した相手からの質問に答えてみるのも良い。

  • 本や文章を書くこと、演習問題を作ることも良い。

以上です。ご質問ありがとうございました。

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