インド料理店で、冷凍ではない羊肉を使用しているところはかなり稀だと思います。そういう意味では充分「実用に足る」と言えます。

そのことも含めて、インド料理で羊肉を扱う時は、ヨーロッパ的な発想というか刷り込みをいったん捨て去る必要があります。インド料理において肉は洗うものなのです。和食だと肉を煮るのに、一度茹でこぼしてその茹で汁は全部捨ててしまったりもしますが、そこまで極端ではないにせよそれに近いとも言えます。

僕は羊肉の場合は、40〜50度程度のぬるま湯で一度さっと洗います。表面のヌルヌルを落とすと共に、感覚としては「血抜き」にも近いです。「血の一滴も逃すまい」というヨーロッパ的感覚のままだと最初はめちゃくちゃ抵抗がありますが、これはやはり理にかなっています。質問者さんの「解凍しながらマリネする」という発想も、完全にあくまでヨーロッパ的な正解ですね。

洗うことで除去するのは言わば「アクのもと」です。インドの煮込み料理には「アクをすくう」という概念は基本的にはありません。それをしようとすると、スパイスや素材の風味を移しとった大事な大事な油も捨てることになりかねないからです。

もちろん洗うとアクだけでなく旨味も流出することになります。当然、冷凍肉の場合はドリップも全て捨てることになります。じゃあそれでどのくらいの旨味が抜けるかと言うと、全体からすれば微々たるものとも言えます。大袈裟に見積もって仮に10%流出するとしても、料理としては誤差の範囲と考えるのは、むしろ理性的な判断なのではないかと思います。

ヨーロッパだと、肉だけでなく魚も「磯臭さが失われてしまう」とぬめりも落としませんし、アスパラを茹でるのに剥いた皮も一緒に茹でます。それはそれで別の合理性もありますが、そこには多分に精神論的な部分もあると解釈しています。日本でご飯を、茶碗に一粒たりとも残すな、みたいなことです。

もう一点、さらに丁寧にやるなら、脂を全て除去することです。売られている羊肉は既にトリミングされて脂がある程度取り除かれていますが、そこからさらに削り取るということです。

インド料理では肉の脂はなるべく取り除き、それを良質な油脂(植物油やギーなど)に置き換えるという思想があるようにも感じます。この辺りもヨーロッパとは逆ですね。ちなみにインドではひき肉は、あらかじめ脂を完全に取り除いた「良い部分」だけをミンチにするので、正肉より高い食材です。そして驚くべきことにそれも水で洗うことがあります。

インド料理はこんな感じで、一般的な常識が悉く覆されるかのような愉快さがあります。ぜひそこも含めて楽しんでください。

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