こんにちは。読む専門で楽しく拝見していたのですが、初めて質問させていただきます。

稲田さんは、「舌が肥える」いうのはどういう状態のことだとお考えか、

またそうするにはどうすればいいか(どんな店に行くとか、何を考えながら食べるのか、等)

ご意見をお聞かせいただきたいです。

以下、この質問の背景を長々と書いていくことになりすみません。

カレー屋でバイトしているのですが、味付けに悩んでいた時どうしたら美味しいもの(カレーも含めて)が作れるようになるか?という話を店長としたところ、

「カレーばっか食べてると限界があるから、むしろフレンチとかイタリアンとか他のジャンルに行くといい。たくさん食べて、舌を肥えさせれば自ずと味付けも変わってくる」と言われました。

また、中華料理出身(&スパイスカレー、イタリアン、鮨...と手広い)オーナーにも舌を肥えさせるとは何かと聞いたところ、「味が再現できること」と言われました。

「5〜10万円とかのコースも食べに行くべき、そこで何も感じなかったらまだまだだから」と目安も教えてもらいました。

オーナー達の言葉は、悩んでた自分にとってすごく新しい発想でとにかく食べに行くぞという気持ちなのですが、もう少し意見を集めて楽しめるようにしたいとも思いました。

稲田さんの著書や質問箱の回答を、いつも刺激を受けながら楽しく拝見しており、ぜひお考えをお聞きできたらと思い質問させていたたきました。

冗長な質問となってしまいすみません。

「舌が肥える」とは何か。なかなか難しいですね。順番にやっていきましょう。

第1段階は「違うということがわかる」です。

例えば地鶏とブロイラーをブラインド食べ比べて、とりあえず何かが「違う」ということはわかる。ここまでであれば、舌が肥えた人もそうでない人も、そう大きくは変わらないと思います。何なら子供が一番分かるまである。いわゆる「お子様舌」は、この後の第2段階以降に紐付くものです。

第2段階は「ラベリング」、つまりどう違うかの言語化です。

「こっちは固くて味が濃い/こっちは柔らかくて水っぽい」という素朴な言語化でもいいですが、そこで「ブロイラー/地鶏」と同定できればレベルが上がります。さらに細かい蘊蓄が付け加えられればもっと上がります。

そして第3段階は「優劣をつける」です。違いはわかった、どう違うのかも言語化できた、ではどっちがおいしいのか。

ここでひとつ問題が出てきます。好みは人それぞれということです。だからここで「柔らかいブロイラーの方がおいしい」と考える人がいても全く不思議ではありません。しかし「舌が肥える」という概念の中では、間違いなく地鶏の方が「正解」です。

つまり、「舌が肥える」には、多くの人が良しとするものを常に選び取る能力も含まれます。

舌の肥えっぷりには、レベルがあります。レベルが上がっていく中で、各レベルの中の多くの人が良しとするものを選び続けることのできる人が「舌の肥えた人」ということになるでしょう。「舌肥えレベルごとの最適解」とも言え、その中心座標はレベルが上がるごとに微妙にズレても行きます。余計わかりにくいかもしれませんが、まっすぐではない松の木のような最適解のCTスキャン、みたいなイメージを思い浮かべていただければ。

 

第2段階を極めていくには、幅広い経験の積み重ねが大事なのは間違いありません。店長さんが「フレンチやイタリアンにも行け」というのはそういう意味で実に的を射ていると思います。ここで面白いのは「インド料理に行け」ではなかったことですね。インド料理の世界で良しとされているものは、レベルが上がるにつれ、第3段階における「多くの人が良しとするもの」と乖離していきがちなので、「舌が肥える」のにはノイズにもなりかねません。

オーナー氏の言う「5万円10万円の店」は、言うなれば、高レベルの舌肥え人の多くが良しとするものの高密度集合体、ということになります。本来なら、1000円と3000円の違いを知り、8000円で変わることを知り、15000円なら……と段階を踏む方が正攻法だと思いますが、オーナーさん流の言うなれば「ショック療法」も面白いかもしれませんね。イマイチよくわからなかったら、もう一度低いところからやり直せばいい。

正直、もっと低い価格(1万円弱くらい?)で、純粋なおいしさ自体はカンストするとも思います。しかし質問者さんは料理を提供する側なので、「高位の舌肥え人が正解とするもの」を知っておくのは悪いことではないでしょう。

 

舌が肥えることのネガティブ面としては、舌肥え人にとっての正解以外は、不正解ないし妥協となってしまい、しかもその正解範囲は高位になるほど狭くなっていくという点があります。海原雄山化現象です。それが幸せかどうかはともかく、料理の提供者側なら、そんな修羅ルートを突き進むことは商売の成功確率及び獲得利益を最大化するものであり、それを体現したのがオーナー氏ということかもしれませんね。

 

僕自身はずいぶん前にそのルートから逸れてしまいましたが、店長さんやオーナー氏のおっしゃっていることは(そのルートを進むのであれば)大正解だと思います。

 

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