「スマホのせいで読解力が落ちた」「文章が書けない人が増えた」という主張は私もよく目にします。しかし、これは完全なる誤解です。正確には、スマホではなくSNSの普及によって「読解力がない人が目に付くようになった」「文章が書けない人が目立つようになった」ということでしょう。

つまりスマホとSNSによって、インターネットを使う人の数が飛躍的に増えて、以前は文章を書く習慣がなかったような人たちにまで、発信する力がもたらされた。これは情報発信の民主化ですが、同時に文章力がない人や読解力がない人がこれほどまでに社会にはたくさんいるのだ、ということが図らずも明らかになってしまうという副効用(あるいは副作用)があったのです。

近年になってリーディングスキルテスト(文章読解力試験)や、リーディングスキルが低い人が意外に多い事実が注目されるようになったのも、こうした時代背景があるのだと思います。

わたしは1990年代に新聞記者をしていて、ときおり「読者から送られてきた投稿を整理する」という雑務をやらされることもありました。当時読者ハガキなどを読んでいて思ったのは「一般の人の文章力ってこんなに低いのか!」というあからさまな感想でした。しかしあれから幾星霜。ブログやSNSが広がったことで、日常的に文章を書くことが増え、それと同じぐらいに文章を読むことも増えています。

ネット以前の時代とくらべれば、SNS時代のわれわれは読み書きする文章の量は飛躍的に増えています。この結果、文章のプロではないのに文章力の高い人が増え、プロを凌駕する人が普通に現れてくるようになりました。社会全体では、文章力も読解力も向上しているというのがわたしの理解です。

つまり全体としては読解力・文章力は向上している。しかし一方で、読解力・文章力の引く人がたくさんいることも可視化されるようになっている。そういう構図ではないでしょうか。

2024/03/21投稿
Loading...
匿名で 佐々木俊尚 さんにメッセージを送ろう
0 / 20000

利用規約プライバシーポリシーに同意の上ご利用ください

Loading...