こんにちは。畑中さんの回答いつも参考にさせて頂いております。

何度か受賞経験のある担当付きの漫画家志望です。

担当さんに「思ってないことは描かなくていい」と言われたのですが、どうすればいいのか分かりません。私は今まで自分の好きじゃないことや思ってないことを描いて受賞してきました。読者のことを考えると、エンタメにするために自分の気持ちは無視して思ってないことを描かなければならないと感じているので、苦しさは受け入れなければならないと描き続けてきました。ですが「好きなものを描いてる人にそんなことで勝てるほど甘くない」という意見も拝見して自分の好きなものを描いたのですが、この方向は向いてないと思うと言われボツになりました。好きなものや思ってることを描いてもボツになるのは、エンタメになってない(見ても得るものが無い)からだと思うのですが、エンタメにすると自分の思ってることではなくなります。これはただ単に自分の気持ちを伝える技術がないということなのでしょうか?自分の思いを乗せて読者の事も考えた漫画を描けるようになるにはどういった努力が必要でしょうか?

本気で状況を突破したいと思うので厳しいことを書きますが、まず「今まで自分の好きじゃないことや思ってないことを描いて受賞してきました」とありますが、このデビュー前の賞を自慢のように感じるのをやめましょうか。

モチベーションになっていたと思うし、嬉しかったと思うし、自分を支える大事な結果だったと思うので、それを無意味なものみたいに言われるのは凄く辛いと思います。

でも、あなたの目標はなんですか?

あなたは数年後どうなっているイメージですか?

デビューはしたものの、それ以後一作も載らない作家ですか?

それともデビュー後、連載し、売れっ子になっているイメージですか?

具体的にイメージしてください。

ちなみに、私たち編集者は「デビュー賞」を出す作家さんに対しては「この人は数年後売れっ子になっているに違いない!まだまだどんどん上手くなる方だ!!」とポテンシャルを感じてデビューを決めます。

だからまぁ、デビューして売れっ子になることを目指してもらってもいいですか?

逆にそうじゃなくて発表の場が欲しいだけなら、今時商業でやらずとも色々方法ありますからね。Xで広告収益も得られますし。

さて。

あなたが目指してる「デビュー」は、だから単なる通過点なんですよ。

厳しい現実を伝えると、早い人なら12歳とかで突破する程度の第一関門であり、本当の勝負はデビュー後です。

今、あなたがまだデビュー出来ていない理由はシンプルです。

技術的にまだ未熟だからです。

このままプロの荒波の中に出ていくと撃沈してしまうから、投稿者という浅瀬にいた方がいいと思われているんです。

だから、たとえ過去に賞を取っていようと、それを合格ラインと考えない方がいい。

プロで勝負するには技術が足りていない、という判断をされたと考えるべきです。

担当に「思ってもないことは書かなくていい」と言われたとのこと。

これは、モノローグの表現力がデビューレベルに達してない・上手くなる必要があると言われたと同義です。

問題がないなら、そこに言及する理由がないので。

あなたがエンタメと呼ぶ自分の気持ちを無視して書いた感情表現はつたなく、下手で、読者の胸を打つレベルには到底届いていない、という状況だと言うことです。

さて、このモノローグのレベルの低さはどこから来ているのか。

担当は、最初あなたが解っていない感情を書いてしまっているからでは?と想定したのでしょう。

そこで、本音を書いてくださいと言った。

が、本音を書いても向いてないと言われた。

つまり、この一連のトライ&エラーで何が解ったかといえば、感情表現の技術がまだ未熟ということです。

どっちを書けばいいでしょうと悩むレベルにあなたはまだありません。

ぐっとくるモノローグとそうじゃないものの見分けがそもそもついてないのかと。

という訳でこれから1か月間だけで良いので、B5のノートを用意して、2つのドリルをやりましょうか。

1個目は小説の書き写しです。

モノローグに問題を抱えてる投稿者さんというのは、基本読書量(漫画でも小説でも)が圧倒的に少ないです。

一般人よりは読んでるんでしょうけど、プロになるには足りてない状況。

感情表現に使えるテクニックとして身に付いているものがそもそも少ない。

だから、量を読むのが手っ取り早いと思いがちですが、そもそも読書量が少ない人というのはわざと少ないのではなく、読むのが遅いという能力的な問題を孕んでいることが多いです。

なので、少ない読書量で表現力の幅を拡げるために、書き写しをしましょうか。

別にこれは漫画の書き写しでも良いです。

模写は絵の勉強にもなるので、絵を写しながらモノローグがどんなリズムで入るのかを意識しながら書き込んで見る。

ただそうするとやっぱり1日に学べるモノローグ量が少なすぎて成長スピードが遅すぎるので、ラノベや名言集など本当になんでも良いので、毎日B5のノート一枚分と決めて、自分がぐっと来た言葉を選んで書き写してみましょう。

選ぶほど読むのも難しい場合はとりあえず頭からB5ノート1ページを埋める分量を書き写すだけでいいです。

ページを埋めたら、好きなフレーズとか面白いと思ったところに赤線を引いてください。

ちなみに大袈裟な表現を手に入れろと安易なことを言ってるわけではないですからね。ごくごく普通に平凡な言葉の羅列にもかかわらず、泣きそうになるような言葉もあったりすると思います。

だから、本当に自分の気持ちに正直になって、赤線を引いてください。

書き写した中に一カ所も良いと思う表現がなければ、線は引かなくていいです。

「これではグッと来ないんだな」ということをその日学んだと思ってください。

2個目のドリルはエッセイです。

自分の言葉で、他人に対して自分の考えてる意見や、感じていることを表現する練習です。

おすすめは一個目の書き写しを左ページに書いて、右ページに自分の気持ちを書き綴ることです。

そうすると、プロの表現力と自分の感情表現力を比較できるので。

今日あったこと、過去の嬉しかったこと、悲しいことなんかを書いてもいいですし、なにか世の中に対して意見があるならそれもいいと思います。

とにかく、だらだらしてて良いので、B5を埋めることだけを目的としてください。

お腹が減ったことだけを綴っても良いです。

B5が埋まったら、印象的なフレーズ、ここはグッと来るポイントだな、と思う部分に赤線を引いてください。

そして左ページのプロの印象深いフレーズと比べてみる。

1か月で良いです。

30日間だけやってみてください。

B5があなたにとってどうしても多い分量なら、B6サイズのノートとかでも良いです。

0よりは少しでもやった方がましです。

パソコンじゃダメですか?という疑問を抱きそうですが、漫画の場合はある程度コンパクトな文章が必要で、うまい人は漫画に最適なリズムのいい長さを体得していますが、おそらく今のあなたはパソコンを使うと冗長になってしまうかと。

人間って結構単純で、書くという物理的に面倒なことがあると、本能的にサボろうとするのか、文章がコンパクトになる傾向があります。

その傾向を利用するためにもノートを使うことをおすすめします。

1か月経つと、そのノートの左側にはあなたが好きだと感じるプロのフレーズがぎっしりたまっています。

そこには必ず、あなたの嗜好性が出ています。

右側には、自分の言葉で書いたグッとくるフレーズが、少なくとも3つぐらいは貯まっています。

左側を読むことで浮かび上げるあなた自身の嗜好性を理解した上で、今のあなたが書ける最高の言葉を使って、ネームを描いてみましょう。

加えて、これも大事なコツですが、あなたが一番言いたいことを、脇役に言わせてはいけません。

どんな意見であっても、必ず主人公に言わせてください。

創作でお金を稼ぐということがどういうことか、シンプルに考えてください。

あなたの考えること(創作物)を面白いなと思った時に、人はお金を払うわけですよね。

ここが読者誕生の瞬間です。

にも関わらず、あなたの考えてること・言いたいことを脇役に言わせて、主人公はそれとは違う考え方の人間にすると、それだけで不利になるって解りますか?

あなたの考えに賛同してくれる読者は、違う考えの主人公のことは好きじゃない可能性が高いからです。

あなたが技術的にもっともっと上手くなって、自分自身の考えが解らない人、全然違う人間の内面を魅力的に書けるようになったら、やっても良いと思いますが、現状は投稿レベルでつまずいているわけで、技術力はそこまでないと考えるべきでしょう。

だったら、まずは「こんなことを考えてるんだ!」「こんな時にキュンとする」「こんなことに嬉しいと思う」「こんなことを言ってやりたい」等々あなたの考えてることや理想を主人公に全部詰め込んでください。

おそらくですが、あなたの次の関門はここです。

元々の性格なのか、なかなかデビューできないせいだったのか、

あなたは現状、自分の考えに自信が持てていません。

だから、違う考えを平気で書こうとする。

でも、それでは作家として不利なんです。

「誰かがこう言ってたよ」と自分の考えを誰かの言葉のようにして他人に伝えるクセがあったりしませんか?

漫画のプロになるということは、自分の考えてることを他人に見せることでお金を貰うという行為です。

自分の意見を言うこと、伝えることに勇気を持ってください。

伝わらなかった時に、自分の考えてることは駄目なんだと思うんじゃなくて、どうしたら伝わるのかを考えて下さい。

技術力の無さにはいくら落ち込んでもいいです。

だってテクニックは身につけられますから。

上手くなるスピードの差はあれど、人は必ず上手くなります。

下手というのは、単なるあなたの「今の状態」でしかないんです。

でも、「下手」という「状態」を受け止めることを嫌って、あなた自身の中身を捨てるというのは、作家として自殺行為です。

あなたはそれをやってしまっているような気がして、心配でならないです。

大事な部分はなにか。

プライドを持つべき部分はどこか。

そこを間違えないで下さい。

1年

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