[t] の弾音化 (flapping or tapping) した実現 [ɾ] の起源について回答します。(Mond 回答者の川原繁人先生には質問をこちらへ差し向けていただきました。)

[t] が弾音化して [ɾ] として実現されるのは、water, abnormality, get up などのように、「強勢母音 + t + 無強勢母音」や「無強勢母音 + t + 無強勢母音」や「語境界」の音環境においてです。同じような音環境にある有声音 [d] も同様に弾音化することから推測すると、歴史的には [t] がまず (1) 声の同化で有声化して [d] となり、次に (2) この派生的な [d] が本来の [d] とともに弾音化して [ɾ] となった、というルートを想定するのが妥当です。

(1) の変化は、すでに古英語期にそれらしき示唆的な例が確認されますし、中英語にはより確実な例が現われます。中英語期から例を挙げれば、water が wader などと綴られている例が確認されます。さらに warter などの綴字もあることから、場合によっては (2) のステージに至っていた事例すらあったことが示唆されます。

近代英語期になると、さらに確実な事例がみられるようになります。例えば、第1音節に強勢のある póttage が pórridge という [t] を弾音化させた異形を発達させ、両語が併存するようになったのが16世紀前半のことです(porridge はもとは「野菜・肉の煮込みスープ」の意味でしたが、17世紀に「オート麦などの粥」の意味を発達させて現在に至ります)。19世紀になると、Dickens や Meredith などの小説でも、neverberrer (= never better) や nor a bir of it (= not a bit of it) などが確認されます。

以上を考え合わせますと、[t] の弾音化は、一般的に拡がっていたかどうかは別として、遅くとも中英語期には生じていたようです。近代英語期にかけて、より一般的となり現代に至ったということです。なお、[t] の弾音化は、アメリカ英語の発音と結びつけられることが多いですが、北アイルランド英語、オーストラリア英語、ニュージーランド英語などの諸変種でも確認されます。

上記の歴史と分布を総合的に考慮すると、アメリカ英語を含めた非イングランド変種での [t] の弾音化は、中英語以降のイングランドで発達したものが、移民とともに各地に移植され継承されたものと考えるのが妥当のように思われます。

上で触れた porridge については、参考までに回答者の「hellog~英語史ブログ」より、「#61. porridge は愛情をこめて煮込むべし」 http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2009-06-28-1.html をご一読ください。

2023/08/27投稿
Loading...
匿名で 堀田隆一 さんにメッセージを送ろう
0 / 20000

利用規約プライバシーポリシーに同意の上ご利用ください

Loading...