小川仁志:拙著をお読みいただき、ありがとうございます。さて、お尋ねの「好き」と「尊敬」の違いですが、一般には、好きというのは、心が惹かれる状態をいいますね。それに対して尊敬とは、人格や行為を認め敬うことだとされます。この両者を比較するということは、好きというのも人を対象にした場合の話かと思います。つまり、人に対して心が惹かれるのと、人を認め敬うこととの違いということです。
その前提で比較していきましょう。まず、人に対して心が惹かれるのはなぜか? それは相手に何らかの魅力を感じるからだと思います。その魅力の中には、憧れや尊敬も入るでしょう。その意味では、好きと尊敬は一部重なります。
では、どういう時に人を認め敬うのでしょうか? それは相手の人格や行為に何らかの価値を見出した時だと思います。とりわけ、自分にはないような素晴らしい性格を備えていたり、自分にはできないような素晴らしい行為をしたような場合に見出される価値です。だから好きになるということもあるでしょう。この点でも好きと尊敬は重なります。
ただ、誰かを好きになった時に感じる魅力と、誰かを尊敬する時に感じるその人の価値には根本的な違いもあります。それは魅力という言葉と価値という言葉の違いに表れているように思います。魅力は吸い寄せられるものであり、価値はひれ伏すものだからです。もっというと、魅力は距離を縮め、できれば相手と一体化したいと願うものであるのに対して、価値は距離を詰めることなく、共に存在したいと願うものなのではないでしょうか。恋人との関係と、お手本となる人との関係は違いますよね。
結局、好きというのは合一を目的とし、尊敬は二元的な共存を目的とするという部分が大きな違いであるように思います。