こんにちは。今回イナダさんに質問したいのは

「和食には酸っぱい汁物、もしくは酸っぱ辛い汁物は存在するのか?」ということです。「和食」なら懐石だろうが郷土料理だろうがB級グルメだろうが何でもいいんですが、「和中華」と「洋食」と「すだち麺」と「宮崎県の冷や汁(ちょっと酸っぱいですよね)」は除いた範囲でご存じでしたら。

私は最近、漬物やピクルスを作るのにハマッていて、この間荻野恭子先生レシピの「ロシア風キャベツの発酵漬け」を作ったのですが、これは中々お手軽な上に作るコスパも良くて。この漬物を汁ごと利用して、ロシア風キャベツスープ(荻野先生レシピ)やザワークラウト風肉の煮込みなんかを作成しまして、他にも何かレシピ無いかな~と考えていたところふと、そういや「和食」には酸っぱい(もしくは酸っぱ辛い)汁物はあんまり無いかも?と思い当たりました。他国はというと、

中華→酸辣湯、韓国→キムチスープ、水キムチ(ちょっと酸っぱい位?)、

タイ→トムヤムクン、ベトナム→カインチュア、欧米→ピクルススープ、トマトスープ、中東→ヨーグルトスープ、トマトスープ 

…私が知っているのはこれくらいですが。

和食の味噌や醤油、ダシには

「酸っぱい(酸っぱ辛い)」という味は合わないのかなあ~とは思います。

(味噌汁が酸っぱかったらまず腐敗を疑います)

もしイナダさんが和食の「酸っぱい(酸っぱ辛い)汁物」をご存知でしたら教えて下さい。

あとインド料理にもそのような「汁物」はありますでしょうか。

「サンバル」は「酸っぱい汁物」扱いでしたっけ。インド料理にも他に酸っぱい(酸っぱ辛い)汁物がありましたら、お教え頂ければ幸いです。

先ず日本料理に限定すると、あれだけ汁物や煮物碗のバリエーションがあるにもかかわらず、酸味のあるものは無いですね。スダチを絞った土瓶蒸しあたりが唯一の例外ですが、あれは具を食べるための後追い調味料であり、汁自体はスダチを絞る前に汁だけを少し飲みますからね。(僕はスダチを絞った後に飲む汁がたまらなく好きですが笑)

地方料理に目を向けると、長野ですんきを味噌汁に入れたり、気仙沼にあざらという料理があったり、要するに漬かりすぎて酸っぱくなった漬物を活用した汁物・煮物があります。

ただしそれらは、漬物を水に晒してなるべく味を抜いて利用するようです。あくまで食材を無駄なく使い切るための知恵であり、酸菜鍋やシュークルートのように積極的に味付けの主役として使うような料理とは、少し趣旨が異なる印象を受けます。

かつて「漬かりすぎて酸っぱくなった漬物」は日本中にあったはずなので、それを活用した汁はもっとあちこちにあってもおかしくないと思うのですが、少なくともメジャーなものではありませんし、日本料理の体系に取り入れられることもなかったわけです。唯一全国区なのは、梅干しととろろ昆布ないし削り節を使った簡易吸い物くらいですかね。しかしこれもあくまで、ダシが無い時の代用(仕方なく)としての汁ですね。

これは僕も昔からどうしてなんだろうと不思議に思っていました。結論から言うとその理由は、日本人が極端にうま味を重視するからではないかと思っています。ダシや発酵調味料などのうま味を軸にした味付けは、酸味の加え方によっては体感的なうま味の強さが後退します。辛味もやはり、うま味をマスキングする効果があります。

「ネオ日本食(©️トミヤマユキコ)」の世界になると、キムチ鍋やレモン鍋、すだち蕎麦などが創作されてきましたが、これは軸となるダシのうま味をいくらでも贅沢に増すことができる世の中になったからなのではないでしょうか。そのあたりの元祖として僕が昔から気になっているのは「タンメンに酢を垂らす」です。これは割と東京エスニックなのではないかと思っているのですが、全国にも波及しているんですかね? 僕自身は初めて聞いた時びっくりしました。家系ラーメンにも酢を垂らす文化がありますね。あれは軸の味が極めて強いからこそ定着しているのでしょう。

 

インド、特に南インドのスープや汁気の多いカレーは全く逆で、むしろ酸味を利かせないことの方が少ないです。サンバル・ラッサムが代表例ですが、「コランブ」と総称される汁気のあるカレーには、タマリンド、柑橘、未熟果、発酵バターミルクなど様々な酸味が活用されます。そしてその多くが菜食料理です。

こういう料理を作っていると、野菜や豆でようやく抽出できた微かなうま味が、酸味を加えた瞬間ほぼ雲散霧消するのに最初違和感を感じました。もったいない!みたいな。でもそれはそういうことではなく、そもそも軸がうま味ではなく酸味の方にある、ということなのです。インドでは酸味を軸としてそこにスパイスや塩や香味野菜などが複雑に加えられた濃い味わいを tangy と表現し、これは最大級の褒め言葉です。

そんなインドの価値観からは、逆接的に、日本での酸味の使われ方があくまで酢の物のようなサイドデイッシュであったり、あるいは米の甘みを引き立てる寿司飯といったところに集中して、決して主軸にはならない理由が浮き彫りになるような気がします。

最後にひとつ付け加えると、日本人は案外気付いていないかもしれませんが、醤油には結構酸味が含まれています。八丁味噌やたまりはさらにその酸味がはっきりしています。もちろん酢や柑橘ほどはっきりとした酸味ではありませんが、この酸味が料理の味に厚みをもたらしているのは確かです。

八丁味噌やたまりを多用する名古屋のダシがとても濃いというのは、とても納得感のある現象だと思っています。名古屋でもなかなか出会えませんが、たまりのみを使ったオーセンティックなきしめんの黒つゆは、飲んだ時にはっきりと酸味を感じるはずです。機会があればぜひ、と言いたいところですが、寂しいことに絶滅危惧種でもあります。

6か月

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