藤岡 宏之:物理学においてどのような意義・・・ですか。なかなか答えにくいです。 ハイパー核として、ここではΛ粒子が原子核に束縛したΛハイパー核を考えます。Λ粒子の寿命はおよそ263ps (ps=ピコ秒、10^(-12)秒のこと) ということが知られていますが、Λハイパー核の寿命は以下に示す2つの要因でΛ粒子と異なる寿命になります。 * パウリの排他原理によるΛ粒子の崩壊の抑制 単体のΛ粒子は陽子と負π中間子、もしくは中性子と中性π中間子へと崩壊します。原子核の中にあるΛ粒子も同様の崩壊をしようとするのですが、陽子と中性子(核子と総称します)はフェルミ粒子であるため、2つの同種粒子が同一の状態をとることができない、というパウリの排他原理が作用します。Λ粒子が崩壊して出来る陽子や中性子は、原子核内にもともと存在していた陽子・中性子と同程度の運動量を持つために、Λ粒子の崩壊は、少数の核子からなる軽い原子核以外ではほとんど起こりません。 * 原子核中の核子をともなった崩壊 上に書いたように、Λ粒子自体の崩壊は抑制されるのですが、核子と一緒に ΛN→NN といった弱い相互作用による崩壊が起こります。Λ粒子の崩壊によって生じたπ中間子が別の核子に吸収される様子を想像するとよいかもしれません。(実際にはそれ以外の寄与もあります。) この2通りの崩壊がΛハイパー核では起こります。前者は崩壊を起こりにくくする方向、後者は崩壊を起こしやすくする方向で、その両方の寄与を考えた寿命は実はΛ粒子の寿命とさほど変わらなかったりします。ハイパー核の核種にもよりますが、Λ粒子の寿命と同程度から0.8倍といったところです。 というのが、Λハイパー核の弱い相互作用による崩壊の概論ですが、原子核物理の一部として位置づけられるハイパー核において実験・理論両面から重要な研究対象です。また、陽子や中性子の間にも弱い相互作用が働くのですが、強い相互作用(すなわち核力)が強すぎてほとんど無視できるレベルです。それに対し、Λハイパー核の崩壊は、Λ粒子と核子の間に働く弱い相互作用を調べるのに適したツールで、他の方法ではバリオン間の弱い相互作用を調べるのは困難なのではないかと思います。(もっと読む)