経済学のお話をしましょう。同期が昇進することはあなたにとって得でも損でもありません。
厳密に言えばちょっと得でもあるでしょう。
たとえ話をしましょう。最後通牒ゲームというものです。
まずAさんにお金、わかりやすく1万円を渡します。
次にAさんがBさんに分け前を示し、双方が合意した時のみお金が手に入ります。
AさんかBさんが同意しなかった場合、お金は没収されます。
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さて、このお話は「合理的な人間」を確認するために使われました。
もし人間が本当に合理的なら、A→Bの分け前が1円、つまりA:9999円 B:1円でも合意がされるはずでした。Bさんの視点なら「1円でも得をする」からです。
しかし多くの人は「Aが得をするのがゆるせない」ので合意しませんでした。
という訳でこの最後通牒ゲームで一番合意を得やすい(つまり、お金が手に入りやすい)分け前は5:5、5000円:5000円であることが実験で確かめられています。
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さて、ではそれが普通だから、Bさんにあたる質問者さんは「悔しく思ってしかるべき」なんでしょうか。私の答えはもちろんNoです。
同期の側に立ってみましょう。言ってしまえば同期の人は最後通牒ゲームのA側で、しかも同期である質問者さんに対して先に昇進するという「負い目」があります。
とはいえ誰かが昇進をしなければいけません。ちょっと気になるのは、質問者さんは質問者さんが先に昇進したら、同期の人に同じように「悔しくてたまらない」ように感じてほしいのでしょうか。これ、仕事がやりにくくて困るし、「昇進したのは嬉しいが、同期に対して”申し訳ない”」気持ちが出てくるのではないでしょうか。
あるいは将来でも似たようなことは考えられます。あなたが先に昇進した同期を抜いて、今度は質問者さんが同期より上の地位に立ってしまった場合はどうでしょう。
あるいはあなたがたを見た上司はどう考えるでしょう。同期同士なので、どちらを昇進させてもぎくしゃくしてしまうのは多少は意識しているでしょう。そうした時に”互いに”悔しく思わないのが上司としても一番気が楽になるお話でしょうし、逆にそうでないと昇進のために人間関係がぎくしゃくして気苦労が増えることでしょう。
最初の最後通牒ゲームのたとえに戻るなら、質問者さんは「今は」少ない取り分で満足しなければいけません。しかしその取り分を提示しなければいけなかった同期、その取り分を指示しなければいけなかった上司、そして将来的に逆に質問者さんが同期に「少ない取り分」を提示しなければならない可能性を考えると、さて質問者さんのお気持ちはどうでしょう。
こうしたことは今後もありえるでしょう。それは世間の人が言うように「あなたが苦労する」ではなく、「あなたが苦労”させる”」未来のお話です。今あなたが感じていることを将来後輩に「……ということがあったんだけど、気にせずにできたおかげで”私は私のペースで”昇進できたよ」と語れる方が気持ちが良いのではないでしょうか。なにより、私の先輩にあたる方がまさしく「同期に先を越されたけれど、気にしなかったおかげで上司のおぼえがめでたくなった」という事例でして。
なんにせよ、あなたは損をしていません。あなたが降格して同期が昇進したならいくら悔しく思ってもいいと思いますが、今はまだ順番が前後しただけです。