レストランの中の人としてのこれまでの経験則から言うと、「ワインを普通に飲む人」は「いいお客さん」である確率が極めて高いです。何をもっていいお客さんとするかは、(無粋で申し訳ありませんが)ここではあくまで「店に利益をもたらしてくれるお客さん」とさせてください。

なぜいいお客さんなのかと言うと、もちろんワイン及びその他のドリンクをたくさん注文してくれるので単純に客単価が高いということがまずあります。しかし理由はそれだけではありません。飲食店でワインを普通に飲む人は、レストランでの振る舞いが「こなれている」のです。

例えば、メニューの中から店が頼んで欲しい料理をバランス良く選び、適切な品数をオーダーしてくれます。逆にこなれていない人は、おっかなびっくりで品数が少なくなりがちです。おそらくお腹も気持ちも満たされないまま、不完全燃焼で店を出ることになります。そういう時、店にとっては、売り上げが上がらないだけではないメンタル的なしんどさがあるのは正直なところです。お客さんを満足させないまま帰してしまった、というモヤモヤです。

ただし、こなれているかどうかは店にとって実は本質的な問題ではありません。別にこなれていなくても、飲食に対して意欲があればそれで充分すぎるほど充分でもあるのです。「ワインを普通に飲む人」は、飲食に対して意欲的であるという条件を既に満たしている可能性が高いというだけのことです。質問者さんが「こなれている」かどうかはわかりませんが、意欲があることは間違いない。それは本来ならば歓迎すべきお客さんです。

 

レストランに来てくれる可能性のある人が100人の村だったとします。ワインを普通に飲む人は20人。そうでない80人のうち、ワインは飲まないけどこなれている人が10人。数字はかなりあやふやですけど、そんなところでしょうか。

最近は、レストランを独立開業するにあたって小規模化が進んでいます。極端な場合ワンオペ。もしかしたらそのこと自体は昔とそう変わっていないのかもしれませんが、少なくともその後規模の拡大は目指さなくなっているのは確かだと思います。嗜好の細分化が進んでいるのと、雇用が極めて難しくなっているからです。質問者さんが行きたいお店もそういうところが多いのではないでしょうか。

そういう小規模なお店は、限られた席数をいかにいいお客さん「だけ」で埋められるかが何より重要です。毎日予約で埋まるような既に繁盛している店はもちろんですが、そこまで至ってなくてもそれは基本的に同じです。

そうなるとどうしても「ワインを飲む」というのを最初のフィルターにするのが現実的な最善策となります。先ほど書いた通り、ワインを飲まないお客さんの中にもいいお客さんはいるはずなのですが、確率が大きく違います。1/8の確率にベットするわけにはいかないのです。

もうひとつ言うと質問者さんのように「ワインは飲まないけど飲む人と同じだけお金を払っても構わない」と考える人は更に少数派です。ワインを飲まない人に門戸を開いても、質問者さんのようなお客さんが来てくれる可能性は限りなく期待薄です。

 

逆に言うと、小規模なレストランは、たった20人のパイを奪い合っているとも言えます。僕はこれはたいへん危険なことだとも思っています。飲酒人口は減っていくばかりなのは明白だからです。だから本当は、ワインも飲まない、こなれてもいない、でも飲食に対して意欲はある、そういうお客さんこそがこれから大事だと考えています。考えているだけでなく、レストランの中の人として、そこに対して積極的に働きかけているつもりもあります。

しかし誰もがそうできる余裕があるわけでもありません。飲まない人たちに手を差し伸べるより、20人のパイを奪い合う方が現時点ではまだ確実です。僕の場合は単に、パイの奪い合いに関して業態的に不利だからそうしているだけと言われればそれまでです。

 

質問者さんの質問にそのまま答えるなら、ワインの利益率は決して高くないけど、それ無しにレストランの経営は成り立たず、ワイン好きの人口は決して多いわけではないけど、レストランはそのパイを奪い合うしかない、ということになります。

質問者さんはとりあえず、ワインを普通に飲む友人を捕まえてそういう店に行くしかないでしょう。釈然としませんね。でも今後、絶対に時代は変わっていくと思います。

11か月

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