お題ありがとうございます。

これはこっそりではなく広く訴えたい話題なので、全文公開します！

ショートエッセイ

『疑惑のカロリーメイト』

カロリーメイトを初めて食べたのは中学生の頃でしたが、僕はその時から、ある疑惑を抱いてきました。それは、ちょっとおいしすぎるのではないか、という疑惑です。

カロリーメイトの本質は栄養食品です。その機能を優先しつつ、なるべく食べやすいおいしさにするというのなら分かります。しかしカロリーメイトは明らかに違いました。明らかに攻めた、ラディカルなおいしさです。おいしくしすぎるとそれを嫌いな人も増えるという分水嶺を超えています。

栄養食品たるカロリーメイトは普通のビスケットとは違って、もしかしたらですが成分的にどうしても雑味があり、それを抑えるためにチーズ味やフルーツ味でマスキングする必要があったのかもしれません。しかし、だったらまだせめて食べやすいおいしさに近いフルーツ味の方をメインにすりゃあいいのに、あえて好みが分かれそうなチーズ味をメインに据えるあたりが、どうにも確信犯くさいです。

しかも、いったん好き嫌いを別にすれば、攻めた味なのに完成度が異常です。なぜそれまで類似のものがないところからいきなりあれが完成するのか意味不明でした。

そんな謎が少し解けたような気がしたのは大人になってからでした。

ある時僕は、バーでサザンカンフォートというリキュールを飲みました。ジャニス・ジョプリンが愛したと言われるお酒です。その時僕は、オロナミンCの味のモチーフがこのお酒であることを確信しました。

ほぼ同じ時期に、海外からのお土産でショートブレッドを初めて食べました。見た目からして完全にカロリーメイトでした。

その時僕の中でこの二つの出来事が繋がりました。

「大塚製薬グループには、欧米のハイカラな味が大好きなおじさんがいて、栄養食品という隠れ蓑を借りて、自分好みの攻めた味を世に送り出してニンマリしているのではないか」

と思ったのです。これはつまり、にっかつロマンポルノを隠れ蓑にして前衛的な芸術作品を撮る、みたいな話です。いかにも90年代サブカル民的な解釈ですが、今でも僕は、これはあながち間違ってもいないと思っています。異文化の伝統的なおいしさを理解しリスペクトしていたから、新しいものを生み出せたのだ、というストーリーも僕好みです。

ただしこれはよく考えたら、木を見て森を見ない解釈でもあるのかもしれません。なぜなら大塚製薬には、ボンカレーやポカリスエットといった、おそらくモチーフなんて存在しない、ゼロから生まれた傑作（にして怪作）もあるからです。

ボンカレーなんて、いかにもスタンダードな顔をしながら、実はめっちゃ個性的です。似たような味のカレーは後にも先にもありません。そういう意味でサッポロ一番塩ラーメンとも似た立ち位置です。ポロイチの方はその鍵がセロリのフレーバーにあると思っていますが、ボンカレーはいまだに分かりません。

ポカリスエットが登場した時は、大人も含めて誰もが最初はマズいマズいと言いながら、最終的にはハマっていったのをリアルタイムで体験しました。それが今ではスポドリというすっかりスタンダードなジャンルに成長しています。

つまり大塚製薬には、単にハイカラ趣味なだけではなく、人々が最初は違和感を持っても慣れによって受け入れてどハマりするようなギリギリの落とし所で味を創り出せる天才（集団？）がいる、ということなんだと思います。

ただ、そんな天才が腕を振るえたのは時代もあったのではないかとも少し思っています。当時の消費者、というか市場は、最初は違和感を感じても、しばらく我慢して付き合ってくれました。しかし、あらゆる味が出尽くし、外国に対する盲目的な憧れも薄れ、競争もいっそう激しくなった現代において、人々は最初の違和感ですぐに離脱してしまいがちです。今の「新しい味」は、予想のつくおいしさの組み合わせであったり、知ってる味をあえて極端な方向に振ったりばかりという印象です。

確かにここまで食が豊かになったら、もう別に新しいものなんて要らないのかもしれません。しかしやっぱり、まだこれからもカロリーメイトやポカリスエットのようなデビューを飾るものが出てきてほしいという期待感のようなものもあったりはします。

ただし、そのようなものが出てきた時、果たして自分はその価値を理解できるのだろうか？という不安もまたあります。外国に伝統的なモチーフがあるという安心感があればまた別です。しかしそうでない完全に新しいものだったら、周りが次々とディスって離脱する、あるいは最初から手も出さない中で、自分だけが根気良く付き合えるか。

もっともその状況であれば、仮に僕が理解したとしても、その頃にはそれは市場から撤退しているんでしょうね……。