人類は、というか生物は、飢餓状態がデフォルトです。砂糖も油も穀類も、本来は、飢餓状態という最悪のコンディションを脱するために最高に効率の良い「からだに良いもの」です。更に揚げ物はカロリーだけでなく、高温調理による食品衛生も担保します。
しかし人類の文明は飽食を生み、飽食は各種成人病を生みました。油や揚げ物そのものには罪はありません。
ほんの100年も遡れば、「栄養」「滋養」だけでなく「カロリー」という概念すらもポジティブに使われていました。「カロリー」という名称の古くからの洋食店が複数あります。今の視点だと滑稽で自虐的な店名にも見えかねませんが、創業当時それは堂々と誇るべきポイントだったのです。
20世紀初頭に刊行された村井弦斎『食道楽』という小説は、日本最初のグルメ小説と言われています。その主人公、つまり『美味しんぼ』で言えば山岡士郎に相当するキャラクターは「丸々と肥えている」ことが美点として描かれています。その体型は滑稽なものではなく、食べ物に詳しく、おいしいもの、すなわち栄養価の高いものを食べ続けていることを身をもって証明するステイタスだったのです。
現代において揚げ物はすっかり「からだに悪い」とみなされているのは確かですが、そこでは往々にして量の概念が無視されています。というか食品における身体に良い/悪いの議論は全般的に量の概念が無視されがちです。
正しく恐れて正しく楽しみたいものです。
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