まず、文学賞に作家の名前をつけた賞が多いのは、基本的には、直木賞・芥川賞が日本では一番有名な文学賞であり、作家名を賞の名に冠する、というフォーマットを後発の文学賞が踏襲している、というのが大きいのかなと思います。もちろん、直木・芥川賞以前からある賞もありますし、もともと、その賞の創設に寄与した人、その業界に寄与した人の名前を冠する賞というのは、古今東西さまざまありますね。「ノーベル賞」「サイ・ヤング賞」など。
なので、作家名を冠する賞が多いのは文学賞に限ったものではないとは思います。
文学賞において、作家名を使う意義は、賞や受賞者に相応の「格」を持たせるためではないかなと思います。また、「その作家が代表する小説ジャンルを対象とする賞であること」を端的に表すものとしても使われますね。ミステリ→江戸川乱歩賞、とか。
で、作家名を冠する賞に限った話ではないのですが、こういった賞には、まず「エンタメ系」「純文学系」の区分けがありまして、さらに、公募新人賞と、既刊作品・発表済み作品に対する賞というものがあります。(ライトノベル系文学賞は今回は除外します)
公募新人賞は、アマチュアの原稿を受け付けて、新人作家の発掘をするのが目的です。
エンタメ系では、前述の江戸川乱歩賞や松本清張賞(ミステリ)、純文系は太宰治賞がありますが、公募新人賞で作家名を冠している賞は多くない印象ですね。公募新人賞は、賞に(および受賞者に)格をつける、権威付けをする、という必要性がそれほどないからではないかと思います。
プロ作家を対象とする賞については、まずは新人~中堅作家の売り出しを目的とするものがあります。
エンタメ系では、直木(三十五)賞、山本周五郎賞、吉川英治文学新人賞など。純文系が芥川賞、三島由紀夫賞などです。こういった賞は、質の高い作品を発表しているもののまだ世間的には知られていない作家にスポットライトを当てて、読者の皆さんに知ってもらおう、注目してもらって本を売ろう、という目的があります。直木賞に関しては、その役割が本屋大賞と被ってきた感じがありますので、もうちょっとベテラン作家に向けた賞になりつつありますが。
中堅作家以上、ベテラン作家、大御所人気作家なども含めた賞は、業界功労賞的な意味合いがありまして、エンタメ系ですと、吉川英治文学賞や柴田錬三郎賞など。純文寄りだと谷崎潤一郎賞があります。
これだけいろいろな文学賞が存在するのは、賞のそれぞれにまったく異なる固有の意義があるわけではなく、上記のような目的の賞を、各出版社・団体・レーベルがそれぞれ創設しているからです。直木賞・芥川賞の(実質的な)主催は文藝春秋社です。江戸川乱歩賞は日本推理作家協会主催。山周賞は新潮社、吉川英治文学(新人)賞は講談社です。
また、地方自治体や地方の団体が主催しているものもあって、その場合は地元にゆかりの作家の名前を冠した賞を創設することがあります。町おこし、PR事業の意味合いが強いですね。金沢市の泉鏡花文学賞が代表例です。織田作之助賞、太宰治賞など、自治体と企業などが共同で運営する賞もあります。