英語のsubjunctive moodについて,英語史的な知見をいろいろと知りたいと思っておりまして,質問させていただきます。

If I were you, ... の were は subjunctive mood の過去形で,現在では唯一の subjunctive の活用の生き残りであること,(他はすべて直説法の過去形と合流) 古英語のときからこのような past subjunctive の用法はあったこと,を先生のheldioで伺ったように記憶しています。ですが,このような条件文においては,時間としての過去を表していないのに, どうして「過去形」であるとわかるのでしょうか。

素人考えですが,hellogの記事を拝読しますと,たとえば古英語 beon の屈折形は,直説法過去形と接続法過去形がかなり似ていますので,当時の話者たちも「過去形」のイメージを持っていたと想定されるのでしょうか。

また,かつてsubjunctive mood は,条件文以外の,他の接続詞などに導かれる従属節でも使用されていて,そこでは明確に過去の事象を表していた例があるのかも気になります。

長文で失礼いたしますが,ご教示いただけますと幸いです。

英語の仮定法過去についての質問、ありがとうございます。古英語でも「仮定法過去」の形式は、おっしゃるとおり確かに過去形として認識されていたと考えています。

まず、If I were you . . . のような文で用いられる仮定法過去の were は歴史的にも確かに「過去形」といってよいと考えられます。それは主に2つの理由からです。

1つ目の理由は、ご指摘の通り仮定法過去の形が直説法過去形とよく似ており、法にかかわらず過去形と認識できるからです。古英語の時代より、両者の形はかなり近いものでした。be 動詞の古英語の形でいえば、直説法過去は wæs/wæron、仮定法過去形は wære/wæren でした。いずれの形態も w- で始まっており、法にかかわらず明確に過去形と結びつけられた形といえます(ただし、命令形として wes/wesaþ という w- で始まる形態が別途あったことは付言しておきます)。

2つ目の理由は、やはりご指摘の通り、仮定法過去が条件節以外でも使われており、そこでは明らかに過去の出来事を表わしていたからです。例えば、古英語では if のみならず that, though, since などに相当する接続詞に導かれる従属節でも、時制としては過去の文脈において、仮定法過去が使われていました。要するに、He thought that . . . に相当する that 節の中などでも、直説法過去 wæs/wæron ではなく仮定法過去形 wære/wæren が普通に用いられたということです。これは be 動詞に限らず、他の一般動詞においても同様でした。ちなみに、時制として現在の文脈においては、これらの形は現われず別途仮定法現在の形が用いられていましたので、仮定法においても時制の区別が明確になされていたことは間違いありません。

ここで1つ注意すべき点があります。古英語の条件節に用いられる仮定法過去は、現在の英語とは違った使われ方をしていました。現代英語では If I were you . . . は時制としては現在の反実仮想を表わすとされます。しかし、古英語の仮定法は時制との連動が弱かったので、反実仮想の時制が現在、未来、過去のいずれの場合でも、仮定法過去が同じように使われました。つまり、現代英語のような (1) If I were you . . . , (2) If I (were to/should) be you . . . , (3) If I had been you . . . の区別に対応するものはなかったということです。反実仮想であれば、時制にかかわらずすべて仮定法過去一本で対処したということです。

以上をまとめますと、古英語の仮定法過去(そして現代にまで続く仮定法過去)は、確かに過去形の形を取り、確かに基本的には過去時制として用いられていました。ただし、反実仮想の文脈で使われる場合には、必ずしも特定の時制を指すわけではなかったということになります。 古英語の事情はややこしいですが、要点を述べれば上記のようになります。質問に対する回答になっていれば幸いです。

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