そんなナイスな疑問を抱いた質問者さんにおすすめしたい本が、鯖田豊之『肉食の思想』。食文化論の古典的名作です。
答えは全てそこにあるのですが、簡単に説明すると、ヨーロッパには日本人にとっての米に相当する「主食」は存在しません。肉を食べる合間にパンを食べることはしますが、それは決して「パンで」食べているわけではないのです。
主食に相当するものは、強いていうなら肉です。しかし肉だけでは栄養的にも気持ち的にも全てが満たされるわけではないので、野菜や穀物、あるいは魚でそれを補うということになります。パンもじゃがいももその中のひとつにすぎませんし、米を食べる場合でも、それはじゃがいもや豆と同じポジションです。
確かにパンはその中でも少し特別な存在ではあります。しかしパンだけで生きていけるかと言えばそれはそれで無理です。米と比較すると圧倒的に単位面積あたりの収量が低い(低かった)からです。
僕は外来の文化にかぶれることがたいへん得意なので、ステーキを食べる時にごはんを食べることはありません。ハンバーグは3/4までをハンバーグだけで食べ、残った1/4だけでごはんを食べます。これは世の中のいわゆる「ステーキソース」がたいてい醤油ベースのおかず味であり、個人的にその味で肉を食べたくないから、ということもあります。逆に言うとステーキソースは初手からごはんに合うように作られているということでもありますね。
しかし、ハンバーグはラスト1/4だけソースをかけてごはんと食べるのですが、実はその瞬間こそがクライマックスであり、もしかするとこれが肉の一番うまい食べ方なのでは、と思わなくもありません。やはり自分の中にも米食民族としての血は脈々と流れており、それがこういう瞬間に、意識の表層に浮上してくる、という感覚です。
とはいえ、フレンチでメインの肉料理を食べている時にそれでごはんを食べたいとは1ミリも思いません。昔の日本人はフレンチ食べても家に帰ってからお茶漬けを食べていたなんて話も聞きますが、その時代の感覚は僕の、少なくとも表層意識からは完全に消滅しているようです。
しかし僕は最近になって、自分の中のどこかにはあるはずの「米無しではいられない日本人のサガ」みたいなものを改めて大事にしたいという気持ちが高まっています。(一時的なマイブームかもしれませんが。)ハンバーグも普段はあまり選ばないふわっとジューシーなタイプを出す店に行って、ソースもちゃんと和風を選び、最初から最後までごはんでそれを食べる、というのをやってみたいものだ、とこの2、3ヶ月ずっと思っているのですが、いざとなるとなかなか踏ん切りがつきません。この質問に出会って、今度こそ近々実行に移すことを硬く決意しました。