かつて精進料理コースの止め碗として「ダシ無し味噌汁」に凝ったことがあります。精進でも普通は昆布や椎茸のダシを使うのですが、そこまでの料理ほぼ全てにそれを使うということと、味噌汁にはあまり効果的でないと判断して、あえて味噌と水のみで仕立てることにしたのです。
結果として、味噌を吟味すれば余裕で成立すると分かりました。熟成期間の長い濃色米味噌をベースに西京味噌を足し、隠し味的に少量の味醂をさす、というのがベストでした。お客さんにも喜んでいただいていたと思います。
ただしこれは、そこに至るまでに様々な手の込んだご馳走が出て、最後に「虚を衝く」食べ物です。また、これは精進である、というあくまで相互理解に基づく仕立てでもあります。つまり趣味の食べ物であり、日常の食べ物とは少し違う。
しかし逆に言えば、ここにうま味調味料を足せば、日常の汁として必要十分なものとも言えると思います。この場合は、味噌の選択などにももう少し自由度も出るでしょう。味の素よりはハイミーの方が向いていそうです。もちろん、椎茸や昆布でも成立しますし、それらとハイミーの合わせ技という手もあります。
あと、具沢山にすればそもそもダシは要らない、という考え方もあります。その典型が豚汁ということになりますが、肉類は入っても入らなくても成立します。この場合は淡色系の味噌でも良い、というか個人的にはそちらの方が向いていると思います。
もうひとつ、僕は最近「手羽元1本を一人前のダシパックとして活用」というのをたまにやっています。200gの水に手羽元(約50g)を一本入れて、肉が柔らかくなるまで火を入れると150gのダシが取れる、みたいなイメージ。このダシはもちろん味噌汁にも活用できます。手羽元はそのまま具にしても、他の料理に使っても。毎日だと流石に飽きそうですが、たまの変化球には良いかもしれません。
いずれにしても、味噌汁は(当たり前ですが)味噌が大事です。そして幸いなことに、日本全国には様々な素晴らしい味噌があります。この際、味噌に凝りまくるというのはいかがでしょうか。味噌なら奮発しても金額的にはたかが知れてますしね。
ただやはり、かつおダシの味噌汁は唯一無二です。その思い出に囚われすぎるなというのも無茶かもしれませんが、どこかで潔く気持ちを切り替えなければいけないのでしょうね。でも味噌という調味料の優秀さ、キャラの強さは、きっとその切り替えを助けてくれるのではないでしょうか。