東京では合計特殊出生率が0.99と1をついに下回り、「衝撃的」と報じられました。2024年の出生数は70万を割り込む公算で、戦後まもなくのベビーブームに生まれた「団塊の世代」が毎年230万人もいたことを思えば、隔世の感があります。いま生まれてくる赤ちゃんは、70代後半になった団塊の世代の1/3以下しかいないのです。
政府は少子化対策を進めていますが、しかしこの対策はどれも「結婚しているが、まだ子どもを産んでない夫婦」「結婚して子どもを産み、2人目3人目を検討している夫婦」に向けてのものです。しかし実際には、子どもを3人以上持つ夫婦の割合は1960年代から変わっていないという統計があり、また東京で6歳未満の子どもを持つ家族の年収の中央値は、2007年に650万円だったのが22年にはなんと946万円。
かつては「貧乏子だくさん」という言葉が示すように子どもは貴重な労働力として扱われました。しかし現代では子どもを育てるための教育費は激しく増大しています。結果として、夫婦ともに高収入なパワーカップルがイコール子育て家庭である、というような状況が都会では起きてきています。
その現状を背景にすると、少子化対策にはパワーカップル支援よりも「貧しくて結婚できない」非正規雇用の若者たちへの支援のほうがずっと重要なはずです。しかしこれは経済成長の問題ともからみあうきわめて大きな話で、少子化対策の枠を超えてしまう部分もあり、政府としてそこまで手を伸ばせないというのが現実なのでしょう。
いっぽうで、工業化・都市化が進めば少子化は必ず進むという「宿命」も指摘されています。実際、かつては日本よりも出生率の高かったヨーロッパも軒並み下がってきています。また東アジアでは日本よりもさらに出生率が低下し、韓国にいたってはなんと0.72というありさま。これは「工業化・都市化などの近代化の速度と、それにともなう社会意識の変化のギャップ」という解説もされています。つまり女性でも普通に働ける社会になっているのに、いまだ結婚には「夫に従う」「家のしきたりに従う」という古い価値観がついて回り、東アジアは近代化が急速に進みすぎたあまりにこの認識のギャップが埋まっていないという指摘です。
今後、アフリカや中東でも工業化が進めば、いずれは世界中が少子化になっていくでしょう。実際、国連では21世紀後半には世界人口がピークアウトすると予測しています。その未来を見据えて、「少子化で人口が減っていく社会でもどのように経済成長を回し、豊かさを維持していくか」というビジョンを考えていくことが大切だと思います。少子化対策はもちろんソフトランディングのためには必要でしょうが、いつまでも人口増加に夢を持っているだけでは、先には進めません。