本を書く仕事をしていて「いいな」と思うことはたくさんありますが、一言でいうなら「自分の裁量でほとんどすべてが決まる」という点です。何を書くか書かないか、どのように書くか、いつまでに書くか……そういったことについて自分で判断をくだすことができる点が、私にとっては良い点といえます。

もちろん、現実問題としては自分の考える企画が思うように進まないといったことはありますし、自分ががんばったとしても売れるか売れないかというのは制御できない部分は多々あります。しかしながら、たとえば会社員として多人数のグループで仕事をしていて、意思決定を行うための会議や根回しや意見交換をしなくてはいけない状況とはまったく違います。

本を書く仕事にはいろんな側面がありますが、その中で割と大事だと思っているのは「書き上げるまで、自分がどんな本を作っているのかわからない」という点です。最初からすべてを見通して書き上げるわけではなく、書きながら新しい「何か」を発見していく必要があります。少なくとも私の本の書き方はそうです。

ですから、書いている最中で極端に大きな方針変更が発生する場合も少なくありません。内容の根幹に関わる部分で「いや、あれはまちがった判断だった。こっちがあるべき道だ」と気付くことがあるのです。そのときに複数人と相談しながら方針を決めるとなると、非常に大きなコミュニケーションコストが掛かってしまうでしょう。

自分の判断がすべて結果的に正しいわけではありませんけれど、柔軟に思い切った判断を下し、自分の作品として名前を冠した一つの成果物ができあがり、その結果や責任は自分が負う。私はそういうシンプルな仕事のあり方をたいへん気に入っています。

(念のために書いておきますが、他の人からのご協力やたくさんのご支援がなければ私の仕事は継続できません。上で述べているのはあくまで内容の判断についてです)

と、ここまで書いてきて思ったのですが、これは必ずしも「本を書く」という仕事に限った話ではないかもしれません。主にソロで活動している方の多くに当てはまる話かもしれません。

6か月

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結城浩さんの過去の回答
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