根本的なところでは、(お店の)中華料理が、高火力と鉄鍋を使ってスピーディーに調理することが可能だからでしょう。素材は最低限の下拵えをした状態でストックしておき、オーダー後即、各種調味料と合わせて仕上げるわけです。例えばフレンチだと、煮込み料理は数時間、肉を焼くだけで小一時間、みたいな世界なので、こういうことはまず不可能です。

それを前提として、中華の場合は「順列組み合わせ」的なメニュー構成が可能になります。塩味・オイスターソース(うま煮)・豆板醤(四川風)・甘酢、などいくつかの味付けパターンと、豚肉、肉だんご、白身魚、海老、豆腐、野菜などの素材を組み合わせると、掛け算的に一気にメニューを増やせます。

また点心類など、冷凍ストックからいきなり調理できるものが多いのも強みですね。

 

こうやって順列組み合わせでメニュー数を増やすのは、実は中華に限ったことではありません。例えばインド料理でもやはり、ベーシックなカレーソース・サグ・コルマなどのいくつかのソース(グレイヴィ)と、予め加熱調理済みのチキン・マトン・キーマ・パニール・各種野菜などの具材を組み合わせてスピーディーに調理することで、これまた順列組み合わせ的な掛け算で膨大なメニューが可能です。

もっとも最近では、ガチ系はあまりこの手法を取りませんし、インド・ネパール系ではだいぶ簡略化されていますので、全体としてはメニュー数は減る傾向です。

 

面白いところでは、僕が「ハザマのスパゲッティ」と呼んでいる、一昔前のスパゲッティ専門店によくあるスタイルもそうです。

トマトソース・ホワイトソース・にんにく醤油……といった味付けのバリエーションに、ベーコン、ツナ、アサリ、チキン、海老、ほうれん草、きのこ、アスパラなどの具材が合わされるわけですが、これが少し特殊なのは「ベーコンときのことほうれん草」みたいに複数の具材の組み合わせも独立したメニューになることです。つまり、掛け算どころか階乗n!ってことです。実際はあらゆる組み合わせが成立するわけではないにせよ、同じオペレーションで膨大なメニューが組める点ではある意味中華以上です。

 

いずれにしてもこれらは、どちらかと言うと古いスタイルですね。中華でもインド料理同様、新しい店ほどメニューは絞られる傾向にあります。

インド料理が特にそうですが、こういうスタイルは「主人と使用人」の関係性が持ち越されたものだとも言われています。つまり使用人の立場であるお店は、主人たるお客さんのどんな要求にも迅速に対応すべく、あらゆる可能性を最初から想定している。選択の主体はあくまでお客さん側にある前提ですね。

日本料理の場合は逆で、むしろ茶の湯や懐石における「亭主と客人」の関係性が引き継がれている印象を受けます。選択の主体はあくまで店側にある。もっとも、大衆的な店、例えば大衆居酒屋やファミレスとかになると急にメニューは増えます。これは順列組み合わせではなく、冷凍などの食品加工技術の進歩がそれを可能にしています。

いずれにせよ中華も含めて、最近は高価格帯の店を中心にメニュー数は絞られる傾向ですね。メニューはコースのみ、カウンター席で一斉スタート、なんて、むしろ千利休の時代に回帰しているかのような印象を受けます。

10か月

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