日本語に敬語表現が発達していることはよく知られています。それとの対比で、質問者のように、英語には敬語表現がない/少ないと思っている方も多いと思います。しかし、実際には英語にも敬語表現は多くあります。諸言語間で、敬語表現のあり方に違いが認められることはあるにせよ、何かしらの敬語表現はあるものです。言語を使用する人間どうしのあいだに敬意という感情がある限り、それは言語表現の上に、精粗はあるにせよ、何らかの形で反映するものと考えられます。英語にも敬語表現が豊かに存在します。
日英語の敬語表現の違いを端的に述べれば、日本語では敬語表現のための専用の表現が用意されているのに対して、英語では一般表現が敬語表現のためにも用いられるということです。両言語はともに敬語「表現」はあるけれども、敬語「体系」の有無について違いがある,と述べておきましょう。
以下、大杉邦三(『英語の敬意表現』大修館、1982年)の分類を参照しながら、英語における種々の敬語表現を紹介します。
(1) 言語的敬意表現:使用する言語的要素を選ぶ。Please comment on that. の代わりに Would you comment on that? を用いるなど。
(2) 論理的敬意表現:論理的に納得させるだけの根拠を提示する。
(3) 心理的敬意表現:相手の心情を察する表現を用いる。I'm sorry ... や I'm afraid ... など。
(4) 倫理的敬意表現:敬意を示す Your Majesty や、1人称代名詞を後置する Mr. Smith and I の語順など。
(5) 配慮的敬意表現:尊敬、称賛、祝福、同情、理解、弔慰を示す。Please accept my sincere congratulations on your marriage. など。
(6) 遠慮的敬意表現:いわゆる謙譲表現で、英語にもあることはある。This is only my personal opinion, but ... など。
(7) 強調的敬意表現:相手の立場などを強調する。I am sure you understand the situation well. など。
(8) 弱調的敬意表現:むしろ控えめに表現する。You're mistaken. ではストレートすぎるので I think you're mistaken. などと述べる。
(9) 直接的敬意表現:明示的に祝福、尊敬、歓迎、感謝、謝罪を述べる。I wish to express my deep appreciation to Professor Smith for his kind invitation. など。
(10) 間接的敬意表現:賞賛や非難を婉曲的に表現する。This is a terrible man. ではきつく響くので、I'm afraid he is not a very nice person. と表現するなど。
この分類が最良がどうかは別として、英語にも敬意を示す言語的手段が多くあることは理解できるのではないでしょうか。