一言で言えば、そもそも人間の自然な思考は必ずしも論理的な思考ではないからです。
例えば有名な問題として「4枚カード問題」というものがあります。これは
4枚のカードがテーブルに置かれている。それぞれのカードは片面には数字が書かれ、もう片面には色が塗られているものであり、3・8・青色・赤色が見えている状態である。このとき「カードの片面に偶数が書かれているならば、その裏面は赤い」という仮説を確かめるためにひっくり返す必要があるカードはどれか?
という問題です。
この問題では、ひっくり返す必要があるカードは「8と青」であるにもかかわらず、少なくない人が「8と赤」をひっくり返してしまいます。
また別の「リンダ問題」も有名です。これは
リンダは31才、独身、率直な性格で、とても聡明である。大学では哲学を専攻した。学生時代には、差別や社会正義といった問題に深く関心を持ち、反核デモにも参加した。
どちらの可能性がより高いか?
リンダは銀行窓口係である。
リンダは銀行窓口係で、フェミニスト運動に参加している。
という問題です。
論理包含関係から明白に1の可能性が高いにもかかわらず、少なくない人は2の可能性がより高いと思ってしまいます。
「4枚カード問題」の誤答は、「確証バイアス」が一つの原因です。赤いカードを裏返して偶数が出てきたら、確かに法則通りのことが起きているので「正しいことを確認した」気分がしますが、実際には法則が正しいか調べたければ「法則が正しくないことが起こりそうな状況(今回なら「赤でないカードの数字がどうなっているのか」)」を調べる必要があります。
「リンダ問題」の誤答は、「想起の容易さ」が一つの原因です。2の方がリンダの説明としてより状況を想像しやすいので、そのため「可能性も高い」と思ってしまうわけです。
このように、人間の自然な思考は、正しい論理的な考え方とは必ずしも一致していません。他にも、人間は「AならばB」を「AとBは結び付いている(AとBが一緒に生じるイメージ)」のレベルで理解しがちなので、これを「BならばA」と取り違えたりしてしまうのです(後件肯定の誤謬)。平たく言うと、人間は「自分がすでに抱いている『正しい世界』のイメージ」に安住しているのが心地よいのであり、それが本当なのか厳しく検討するのは不快なので、好んでそういうことはしないように出来ているのです。
ここに挙げたような論理パズルならば問題なく解けるという賢明な人でも、自分の意見が先に存在していたり、政治的対立が存在したりすると、容易に誤った議論に陥ります。巷で問題となる「陰謀論」もある種の確証バイアスの表れと見れますが、以下の記事では、賢明なはずの学者でさえも、ともすると陰謀論に陥ることが指摘されています
https://kozakashiku.hatenablog.com/entry/2022/11/06/095112
人間の自然な思考と論理的な考え方が同じでない以上、人によってその能力に差異が出るのは当然のことです。上にあげたような誤謬に陥りにくくするには、「人間はどういう誤りを犯しやすいのか」を勉強し、また「自分の抱いている信念が正しくない可能性」を常に考慮しながら思考できるようにする、それなりの努力と訓練が必要です。