難しさの1番のポイントは、「麺の茹で上がりと水分量がちょうど良くなるタイミングを一致させなければならない」です。ワンパンの場合、「火加減」という極めてアナログな要因により、麺が理想的な硬さになったタイミングでまだ水分が多すぎるためもうしばらく煮詰めなければならないケースや、逆に水分はちょうどよく飛んだけどまだ麺に火が入りきっていないケースを回避することが困難です。後者はまだ水を足すことで多少のリカバリー可能ですが、前者はリカバリーしようがありません。

その点、オーソドックスな方法だと、この2つを別々に管理できます。ソースは程よい水分の状態でいったん完成させ、麺は麺でちょうど良い茹で上がりを狙えるということになり、ぐっと簡単です。

また味付けに関しても、ワンパンの場合は、仕上がるまでちょうどいいかどうかがわかりません。味付け直後は味見すると薄いはずですが、その段階で仕上がり時点の味を予測できるのはかなりの上級者だけに限られるでしょう。

また、ちょうどいい茹で上がりまでの時間も、塩水で茹でるだけであれば「目安9分」みたいな感じで標準化できますが、ワンパンはソースの濃度などによってそれが大きく変わることがあります。レシピごとに時間が変わるのです。

 

つまり一言で言えば「ブレが出やすい」ということになりますね。ただしここで案外大事なのは「ブレがあったっていいじゃないか」という考え方もあるってことです。特にリュウジさんのレシピは、パスタに限らずだいたい常に「多少ブレてもおいしく仕上がる」という点は徹底して考え抜かれていると思います。実に一貫性があります。

だいたい僕がさっきから「麺の茹で上がりのタイミング」と連呼しているのは、「パスタはちょうどいいアルデンテであることが望ましい」ということを前提にしているからです。実際のところは、オーバーボイルにはオーバーボイルのおいしさがあります。実際僕も、あえてオーバーボイル気味に調理することがあります。素材との組み合わせやその日の気分次第です。

だからワンパンの欠点を改めてより正確に言うと、そこの人為的なコントロールが難しく、ある意味で運命(偶然)に委ねるほかないということになるでしょう。

味付けも然りです。うま味を増せばストライクゾーンは広がります。つまりブレの許容範囲が広がるという事。しかしそれを避けたい場合はひたすらピーキーになっていきます。これもまた、オーソドックスな調理法だとコントロールが容易です。完成したソースを味見した上で仕上げにかかれるから。あるいは麺自体の塩味は茹で湯の塩分濃度だけで決定できるから。

要するにオーソドックスな手法の方がむしろ「時短・簡単」なだけでなく、思い通りの仕上がりを目指すための自由度が高いということです。もうひとつ付け加えるならば、いくつかの基本レシピをマスターした時点で、そこからの応用が極めて容易という点も重要です。

2024/04/27投稿
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