何を迷うことがありましょうや。

焼肉なんてのはホルモンを一度にドカッと焼いてビールをグビリ、ホルモンが焼けるまでの間にキムチをつまみ、うまそうに焼けたらあとはひたすらビール、ホルモン、ビール、ホルモン、とあおり続け、ビールがなくなったら即おかわり、肉が半分になったら次を追加、それをひたすら延々と繰り返すだけでしょうが。

 

……そんなふうに思っていた時代が僕にもありました。若かりし頃の話です。

「焼肉の真髄は内臓肉である」

そんなグルメ文脈を真に受けました。

「日本人は本当の肉の旨さがわからんからカルビだのロースだのを有り難がるのだ」

と言われれば、そうなのかと信じるしかありませんでした。

「カルビやロースを頼むくらいならハラミ」

らしいのでその通りにしました。

「焼肉屋でライスを頼んでいいのは女子供だけ」

などという酷いマチズモにもすっかり踊らされていました。

しかし30才を超えて僕は覚醒しました。

焼肉はカルビである。

カルビは脂である。

脂にはタレである

タレには米である。

米には汁物である。

 

焼肉屋さんの卓についたら、まあそりゃまずはビールを頼みます。そして己の欲望を焦らすかの如く、先ずはハツあたりを頼みます。ビールなのでここは塩です。肉は一枚ずつゆっくり焼くので、間を繋ぐためにナムルもしくはチョレギサラダも頼みます。本当はキムチが食べたいのですが、焼肉屋さんでは僕が好きなガッツリ発酵した酸っぱいキムチが出てくる可能性が極めて低いので、ガッカリするくらいなら、とそのあたりで手を打つわけです。

その後はすぐカルビに行きたいところで、実際そうすることもありますが、せっかくなのでもう少し引っ張ります。脂たっぷりの大腸か、もしくは変化球でレバーです。理想は網レバーですが。もちろんビールも行きます。ですがマックス三杯までです。

最後の一杯と同時に、いよいよカルビを頼みます。必ず上カルビです。カルビは脂だからです。もちろんタレです。上カルビの半分はビールで迎え撃ちます。本当はこの時点で既に米の方がいいのですが、どうもいまだに「米はヘタレ」の呪縛から完全に逃れられていないのかもしれません。

上カルビを頼んだ時点で同時にスープも頼んでおきます。スープは時間がかかるのです。理想は赤いテールスープですが、無いことも多いので、その場合はユッケジャンスープで手を打ちます。

スープの到着と同時にライスを頼みます。ライスはすぐ来ます。

目の前には

・ライス

・上カルビ3切れ

・赤いスープ

・ナムル少々

という風景が展開しています。これがすなわちメインディッシュです。ここからが本番です。もちろんビールはもうありません。ここからはこの「定食」を三角食べ的に、もっと正確にはミールス的に、グルーヴィにかっ喰らうのみです。ここでの主役は実は汁です。だから汁のうまい焼肉屋さんは宝です。上カルビはどこでもうまいけど、汁にこそ真価が現れるのです。

調子が良さそうならもう一皿カルビを追加します。この時は上ではなく、並・ゲタ・切り落とし、そういうやつです。変化を求めるとも、硬さゆえの対ゴハン戦闘力を重視しているとも言えますが、本当は単なる貧乏性なのかもしれないという自覚もあります。何にせよこの場合は当然ライスはおかわり必須です。肉・米・汁・ナムル、という複雑な循環の中で、高度なライスマネージメントが求められます。そして最後は、汁だけ残った汁を飲み干します。

今日も良い一日でした。

9か月9か月更新

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イナダシュンスケさんの過去の回答
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