小山一貴＠野良小説編集者:お疲れ様です。小山です。 まずコンテストの受賞＆書籍化おめでとうございます！ 22年の2月ごろに企画が動き始めたということでしょうかね。それが23年の7月刊行……その時点でちょっと、いや大分動きが遅いですね。受賞時点では書籍化検討の賞で後から打診があったという感じでしょうか。それならまだ理解できます。 しかしこれサラっと流していますけど、刊行予定の連絡から改稿案の返信までに半年かかっていませんか……？ いやその間にやり取りがあったならまだいいのですが……。え、なんでそんなに仕事が遅いんでしょう。 通常、書籍化打診から改稿指示を入れた原稿の戻しまでに2か月かかるとは到底思えないのですが。それに刊行予定は打診をかけたタイミングである程度逆算して枠を押さえるものです。それがどんどん後回しになっていくというのは……どういうことなんでしょう？？？ もちろん刊行枠の関係で多少の調整が入ることはあります。ですが、1～2か月の移動ではなく９か月もズレるというのは寡聞にして聞いたことがありません。 作家さん側で原稿を落としている以外でそんなに大規模にずれることはあり得ません。原稿が落ちた場合も刊行予定自体は出ていてそれが延期されるという形が多く、そうでない場合はそもそも刊行予定を立てることができないというのが実態です。そういう場合は最初にここを目指しましょうというスケジュールは出しますが、そのあと逐次何月刊になりましたなどは言わないものです。どうせ原稿が出来るまで世に出せませんからね。 いや寡聞にしてというのはもちろん謙遜で言ってるんですけど、もしかしたら本当に僕が何も知らないだけなんでしょうか？？？　なんだか混乱してきました。 質問者さんがおっしゃる通り、普通は刊行スケジュールに合わせて書籍化作業を進めていきます。そして先述した通り原稿が落ちた場合だけ、原稿完成後に刊行日を調整します。 なので理由として考えられるとしたら、アニメ化作品や看板作品が相次いで原稿完成後の刊行決定を繰り返したことで刊行枠が埋まり続けた場合。 もしくは、担当編集さんが刊行枠を押さえることを完全に忘れていて編集部と折り合いがついていない場合。ないしは立場が弱くて後回しにされ続ける場合。 まぁどちらにしろ普通は9か月も後回しにすることはあり得ないので、多分その２つの複合技だとは思うのですが……それにしてもひどすぎますね。 ちなみに契約書を結んでいないのであれば今の時点で引き上げてもなんの問題もありません。 そして、契約書を結んでいる場合は、逆に半年以内の出版の義務を果たしていないのでこれもまた同様に引き上げてもなんの問題もありませんし、むしろ先方の契約違反の咎なので追加で何かあるかもしれません。ちょっと契約違反時に何が起きるのか僕は詳しくないので、そこは質問者さんの方で調べていただければという感じですが。 なので、引き上げ自体は全然アリです。質問者さんの気が収まらないのであれば、それもまた道でしょう。 ただ、挿絵まで完成しているタイミングでの書籍化の引き上げについては、少し考えてみてもいいかもしれません。 ……と思ったけど4月刊なんですっけ。挿絵が今あがってる作品は1～2月刊が普通なんですけど……頭こんがらがりますね……。 なんだか4月刊なら引き上げてもいいのではと僕も思ってきましたが、一応編集者として真面目なことも言っておきます。 挿絵まで企画が進行した作品を引き上げた場合、その作品について表で使うことはほぼ不可能になります。 刊行予定が公開されていた場合は更に作家名にも傷がつきます。 実際は他のレーベルからその作品を書籍化することも可能ですが、その書籍化段階で以前他の出版社で企画が進んでいて、などの情報を一切出さないことが必要になると思います。 なぜなら、挿絵まで出来ていた作品を引き上げた経歴のある作家さんは、同じ目にあわされるのが怖くて出版社は仕事したくないからです。 単巻ならいいかもしれませんが、2巻以降は明確にその編集部での立場が悪くなるはずです。 僕なんかは深く話を聞けば事情があったんだな、僕はそんなことしないぞ幸せにするぞ。 と奮起するタイプですけど、会社員編集的にはリスクは取らないのが鉄則なので……。たとえどんな事情があったとしても、引き上げの事実だけで敬遠されるということをよくよく肝に銘じておいてください。 基本口に出さないを徹底していれば問題はないと思いますが。 書籍化作業に慣れているのは知り合いから聞いたということにでもしておいてください。 以上のことが守れるなら引き上げてもいいかもしれないとは思いますが、大分リスクは伴うのでそこだけは覚悟してください。 ここで作家さん側にリスクを負わせる出版社のやり方が最悪なのは間違いないのですが、この体制をなかなか正常化もできないのが現実なので……。 まぁ、編集者的には今回の企画は犬に噛まれたと割り切って出版してしまって、以降のシリーズでは金輪際その出版社とは縁を断つというのが一番のおすすめにはなります。 せっかくお金ももらえるチャンスですし、もらえるものはもらっておいていいのかなと。 ただ、独占的出版権の保持期間については交渉の価値ありです。 おそらく基本は3年間保持になるのですが、この独占的出版権が切れると、他所の出版社から再書籍化ができるようになるので、その期間を短くするように交渉する。 ないしは出版許諾に内容を切り替えそもそも独占的出版権を認めないなどの対応もアリです。こちらの場合は即座に他から書籍化の話に乗ることができます。独占的ではないので。 その交渉に乗ってくれないのであれば刊行予定のグダグダも含め契約順守の精神がないとみなして、取引を辞めさせていただきます。 とするのがスマートな大人の対応かなという感じがします。 なんにせよ質問者さんの心がどちらを向いているかが一番大事なので、後悔しない選択をしてください。 どんな選択の先にも行き止まりなんてなくて、道は続いているものです。 質問者さんの未来に光射しますようお祈り申し上げます。