イナダシュンスケ:「本当にうまい〇〇を食べると、そんじょそこらの〇〇なんて食べられなくなる」 なんていうグルメ構文があります。 わからなくもないけど、僕はこれはちょっと胡散臭いとも思っています。うっすら(というかはっきり?)マウンティング臭がするというのもありますが、個人的体験として、むしろ逆ではないかと感じているからです。 あまり好きではなかった、ないしイマイチ良さがわからなかったものが、そのジャンル内の特別良いものを食べた結果おいしさが理解できるようになり、そうなると普通ランクのそれの良さも理解できるようになった、という体験の方が僕はずっと多いです。 そういう意味では、これによく少し似たグルメ構文の 「〇〇が嫌いだなんて、本当においしい〇〇を食べたことがないからだよ」 には、一面の真実があると思います。ただし言い方! この言い回しははっきりとマウンティング臭がするのでカッコ悪いです。グルメ諸氏は、もっとマシな言い方を工夫して欲しいものです。 何を言っているのがわからないかもしれませんが、添え物の白スパゲッティの世界にも「特別良いもの」が存在します。それはだいたい、洋食屋さんで登場します。洋食屋さんの添え物スパゲッティは、ケチャップ(だけの)スパゲッティが多いですが、時々それが白のこともあります。僕はこれが大好きです。 ある洋食屋さんのベテランコックさんと話していた時、そのコックさんがその店の白スパゲッティについて 「あぶらで炒めただけなのに、なんであれあんなにおいしいんだろうね」 と言っていたことがあります。ベテランの職人さんが自画自賛するほど、それは不思議なくらいおいしいものだ、ということです。 その店の白スパゲッティは、大きなフライパンでラードを使って、全体にその香ばしさが行き渡るようにしっかりと炒められます。そして主役を邪魔しないよう控えめで絶妙な加減で塩コショウされます。おいしくないわけがありません。だから特別なのです。 翻って、一般的なお弁当に入っている白スパゲッティは、ラードではなくサラダオイルが単にまぶされているだけだし、特に意志を込めて味付けされているわけでもありません。だから洋食屋さんの白スパゲッティには確実に劣ります。しかしそれにはそれの良さもあり、良い白スパゲッティのおいしさにたどりつけたらそのかすかな良さも感じ取れるようになるのではないか、というのが僕からの提案です。 実際のところ僕は、ある時はパン粉の屑を、ある時はソースの微かな残滓を、ある時はから揚げから染み出した鶏脂を、うっすらと纏いつつもほぼ無味な、あのお弁当の白スパゲッティが割と好きです。 おいしいものを食べる合間の無味のひとときは、食事のグルーヴ感を高めることもあれば邪魔もすることもあります。どっちに転ぶかは、食べる側の技量とセンス次第かもしれません。四つ打ちのエレクトロにおけるキックのブレイクが、カッコ良くもなればダサくもなるのと似ているかもしれません。余計わかりにくい例えですみません。 僕は、おかずもご飯も全て食べ終えた最後の一口で、白スパゲッティを楽しむパターンが多いです。これはちょっとダサいような気もしますが、そういうのもアリってことです。僕にとってあの白スパゲッティは、「最後のお楽しみ」なのです。(阅读更多)