佐藤克文:これはもう、私が答えざるを得ないどんぴしゃりの質問です。 海洋観測は、古くは観測船を用いて世界中の海で進められてきました。結果的に、観測船が入るのが難しい海域、つまり南極や北極の海は厚く海氷が覆っているために船が入れないという事情があり、観測が十分なされてこなかったという経緯があります。しかし、そんな海氷が浮かぶ海にもアザラシは暮らしている。そこで、アザラシに測器を取り付ける事で測定した、南極や北極の水面下の水温や塩分が大いに役立ちました。私は同じ装置を熱帯の西パプアで産卵するヒメウミガメに取り付け、産卵を終えた後にアラフラ海を回遊するヒメウミガメを使い、現地の水温データを取得しました。現在世界中の海でアルゴフロートという自動昇降ブイを使った観測が進められています。しかし、アルゴフロートは10日に一度2000mまで潜って水温を測定した後に水面に浮上してデータを送ってくるため、平均水深300mのアラフラ海に投入することができませんでした。ヒメウミガメが測定した水温データは非常に貴重なモノになります。それを、大型計算機を使って物理データを取り込んで計算する人に渡したところ、ウミガメが観測した現場データを取り込むことにより、計算結果がより真実に近づき、3ヶ月後の水温季節予報の精度が向上するという研究成果が得られました(Doi et al. 2019 Frontiers in Marine Science)。他にも、オオミズナギドリという海鳥にGPS装置を付け、得られるデータを使うと海上風(Yonehara et al. 2016 PNAS)、表層流(Yoda et al. 2014 Progress in Oceanography)、波浪(Uesaka et al. 2022 Progress in Oceanography)を観測できるということが判明しました。いずれも既存の観測網では十分な現場観測データが得られなかったもので、貴重な観測データを提供できるということが分かりました。人間が十分観測できない海域を海洋生物が観測してくれるという構図を私は気にいっています。海洋生物が測定する観測データを私たちが有効活用することで、気象・海洋の予測精度が大いに向上する可能性があります。是非皆さん応援して下さい。(阅读更多)