綾崎隼:ありがとうございます。両校の物語をどちらも楽しんで頂けて嬉しいです。 世怜奈先生が生徒に教えたゴールの後の言葉というと、リオ・ハーバートが発する『月夜に釜を抜かれたな！』をはじめとする数々の妄言でしょうか。 レッドスワンを＜サッカー小説＞として書くに辺り、目標としたのは、これを、一人、二人のための物語にしないということでした。 執筆前、研究のために、世に出ていたサッカー小説を軒並み読みました。そして、ほとんどの本が主人公の成長を物語の中心に据えており、極めて小数の登場人物にしか焦点が当たらない作りになっていることに気付きました。 一つの画面、一つのページに、複数のキャラクターを描写出来る映像や漫画とは媒体が違います。仕方のないことだとは思いますが、サッカーは11人で戦うスポーツですから、一人の活躍で試合が動いていく物語には絶対にしたくありませんでした。視点主である主人公が最初から怪我をしていてプレーしないのも、その意思を貫くためでした。 ただ、11人以上の登場人物を過不足なく描写していくのは、簡単なことではありません。一人一人に律儀に見せ場を作っていてはテンポが死にますし、小説としての完成度も下がります。そのため、どうやって短いセンテンスで個性を見せるかを考えながら、キャラクターを作っていきました。 レッドスワンは私の本の中で、最も個性的な登場人物が多い小説だと思います。それは、技術的にそうする必要があったからでした。（自分から動いてくれる子たちが多かったので、書いていて本当に楽しい小説でもありました） リオもその一人です。唯一の外国人プレーヤーで、守備が苦手で集中力もないが、決定力は誰よりも高い。ニュージーランド人なのに、何故か英語よりも古典の成績が良い。そんな彼の個性を試合展開にも落とし込もうと考えた結果、ゴール後の台詞が生まれました。 レッドスワンも、セレストブルーも、大好きなので。 いつか続きを書きたいと、今でも思っています。