深野 祐也:面白い&研究界隈でもホットな質問だと思います。自分を犠牲にして他者を助ける行動を利他行動と呼びます。血縁者への利他行動は、人間を含め色々な動物で観察されていて、それが進化しやすい条件もある程度定式化されています。「子育て」がもっともわかりやすい事例ですね。一方、非血縁者への利他行動は、血縁者への利他行動に比べて進化しにくいことが理論的には示されていて、限られた動物でしか観察されていません。現代の人間社会では血縁者・非血縁者への利他行動がよく見られるので、自然界でも一般的かと思ってしまいますが、そうではなさそうです。 以上が動物の状況です。動物に比べ、植物の利他行動はほとんどわかっていません。 植物が、隣株の血縁に応じて自らの成長パターンを変える、ということは多くの研究で示されています。しかしほとんどの研究が実験的に管理された条件で得られた研究なので、野外の無数の個体が相互作用している複雑な状況下でも観察される現象なのかはわかりません。さらに、血縁に応じた成長パターンの変化が、血縁者への利他行動なのか、もわかっていません。どんどん研究が進められている分野です。 最近、樹木が地下部の菌類ネットワークを通じて、周囲に生えている自分の子供(苗木)に栄養を与えているという魅力的なストーリーが一般書籍で紹介・流布されています(マザーツリー仮説)。この仮説が正しいとすると、まさに人間の子育てと同じような血縁者への利他行動と言えます。しかし、この仮説を支持する証拠は今のところほとんどなさそうです。学術分野の研究者は、この仮説を支持する証拠がほとんどない状態で、この考え方を一般に広めるのは、疑似科学的だと繰り返し批判しています。https://www.cell.com/trends/plant-science/fulltext/S1360-1385(23)00272-8 さらに難しいのは、非血縁者への利他行動が植物で進化しうるか、ということです。こちらはほとんど検証例がないのではないかと思います。 https://www.cell.com(Read more)