元祐 昌廣 (Masahiro Motosuke):数学,理科,科学,テクノロジー,研究の知識や情報を発信する人は,科学教育やサイエンスコミュニケーションという分野では広義の研究かもしれませんが,一般には「研究者」ではないかと思います.何らかの研究をやってる人を研究者と呼ぶのが普通かと思います.研究のプロとアマ...プロの定義に従うと「研究活動によって給料をもらっている人」ということになるかと思います.YouTuberはそういう意味では研究に関する発信はしているが研究そのものはやっていない,ということになりますが,研究をやっているのでなければ「アマ」とも異なるかと思います.ただし,研究に関する知識などが劣っているというわけでもありませんし,どちらが良い/悪いということもないです.研究にプロもアマもないので,興味を持ってみんなで色々な研究を行い,科学を発展させられれば良いと思います.そういう意味では音楽と似ている気がしますが,プロやアマ関係なく良い音楽を人に届けることができればリスナー(一般市民)としては嬉しい限りです. 発信スキルに関してはYouTuberの人達はかなり高い技術を持ってるので,研究者の知見をYouTuberの人が発信することで多くの人に伝えるようなことも大事かと思います.(Read more)
大谷栄治:私は,研究のプロとアマは,研究内容や研究成果の点では,区別はできないと思っています.もし,あえて研究者をプロとアマに分けるとしたら,プロはプロスポーツの選手のように,研究を生業として,生活の対価をもらって生活をしている人,そして,公的または民間の研究助成機関から研究費を支給されている人ということになります.アマは,特に研究を生業としておらず,趣味で研究調査をしている人を指すことが多いと思います.しかし,その成果によって区別することはできず,優れた研究成果を出せば,プロでもアマでも優れた研究者であることに違いはありません.学位のあるなしもプロとアマの区別にはなりません.学位のない優れた研究者も多く存在します.プロでもアマでも研究成果や研究実績からは区別できず,また区別する必要もありません.書籍,雑誌,SNSなどで研究をわかりやすく発信して,それを生業にしている場合には,研究者ではなく,プロの科学ジャーナリスト,または,プロの教育者に含まれるといえると思います.(Read more)
林 茂生:研究者にプロとアマの違いはあります。研究とは人類にとって未知の現象を明らかにしたり、新しい方法や考え方を提示して科学を進歩させる活動のことを指します。発見の真偽や、新規性の判断は過去の報告にあたる必要があるため、研究の評価は先行する膨大な学術の知識を把握した上で判断されます。現代の科学では研究を実行するために高価な機器を使用し、学会で他の研究者と交流し、科学論文を読むために多額の資金を要します。なので研究資金を獲得し、研究に専念できる「プロ」でないと本格的な研究は出来ません。学位を持ち、研究機関に属して研究費を獲得できることが、プロの資格です。 一方で研究の成果や社会への波及効果をわかりやすく解説する科学コニュニケーションの分野では、研究機関に所属する専任スタッフから、別に職業を持ちつつメディアを通じて社会に意見を発信する方もいます。研究Youtuberで有名なヨビノリたくみさんは高校レベルの物理、数学から先端研究者のインタビューまで極めて高いレベルでこなす方で、並みの大学教官よりも面白い講義ができそう、と噂されています。彼はプロと言って良いですが、他にもYoutubeやPodcastで役にたつ有用な番組が数多く発信されています。科学コニュニケーションはプロ・アマが競い合う分野だと言っていいでしょう。この状態になった理由の一つはこの分野がまだ発展途上の段階であること、そしてかつては科学コニュニケーションの本体を担っていた新聞、TVによる科学解説の能力の相対的な低下であると考えています。(Read more)
川原繁人:いろいろな基準があって、一概には言えないと思いますが、やはり制度上の問題として博士号を持っているかどうかは大きいでしょうね。博士号は、「一人前の研究者として認める」という資格ですから。そのために大学院授業をとり、研究をし、博士論文を書き、それらすべてが認められて始めて博士号が授与されます。博士号の取得のために学会発表が課せられることもあります。博士号習得後も研究を続けて、その分野の前線に居続けることも大事でしょう。 特に英語圏では、science writerという科学的な結果を世間に分かりやすく伝える「プロ」の方も昔からいらっしゃいます。日本でも「ファシリテーター」という形で研究者と社会の橋渡しをしてくれる人も増えてきました。それでも、この方々は「研究のプロ」ではないですね。もちろん、これは優劣の問題ではなく、仕事の種類が違うだけです。 一般的に「プロ」と「アマ」というと、「それで生活できているか」という基準も考えられますよね。じゃぁYouTuberになって研究の解説動画だけで食べていける人は、プロと言えるのか……。やっぱり言えない気がします。自分自身の研究があってこそプロなんじゃないかなぁ。(Read more)