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ご質問を「世の中は便利になっていくけれど、それにともなう弊害もある」と言い換えるならば、「それはそうですね」となって終わりになる話のように感じました。特に「人間の精神の進化」のような大きな単語を出すまでもなく、「世の中のどのような変化でも、良い面と悪い面がある」ということではないでしょうか。いかがでしょうね。

ここからは私の勝手な想像なので、あなたに当てはまらなかったらごめんなさい。私もしばしば「こんなスピードで便利になっていったとして、世の中はどうなってしまうのか。弊害が大きいのではないか」と感じることがあります。でも、自分の心を探ってみると、そのように感じるのは必ずしも世の中を心配しているときではなく、自分が世の中についていけていないときのようです。あくまで私の場合ですよ。

私はプログラミングをしますが、プログラミングの世界はものすごいスピードで進歩(変化)しているため、ちょっと時間があくだけで、自分の知っている知識がすっかり古くなっていることに愕然とします。そして、若い頃ならばすぐにキャッチアップできたのに、年齢が増すごとにそれに時間が掛かるようになってきます。

そんなとき、自分の衰えや老いを認めたくないばかりに「世の中はどうなってしまうのか」や「こんなスピードで進化する必要があるのか」や「弊害の方が大きいのでは」と思ってしまうのです。もちろんそこには真理もいくぶんかあるとしても、ぜんぶがぜんぶ公正な主張ではないなあ……と私は思うのです。あなたはいかがですか。

私たちは自分の目の前にある変化は実感として感じ、大きなものと思いがちです。しかしながら、実はこれまでのどんな時代であっても同じように(その時代の人にとっては)大きな変化があり、各時代の中で「こんなスピードで変化して、人間の精神は追いつけるのか」と人々は感じたのではないかと想像します。火を見付けたとき、蒸気機関を作ったとき、電気、コンピュータ、インターネット、量子コンピュータ……

目の前の出来事を、どうしても大きく重いものとして感じがちですけれど、公正な目をもって判断するためには歴史的な視点や、あるいは自分以外の年代の人の考え方、自分とは異なる多様な視点が必要なのかな、とよく思います。空虚なスローガンとしての多様性ではなく、現在の自分以外の考え方を知るための多様性を大切にする必要があるのだろうな、と思います。

以上、あなたのご質問から大きく離れてしまいますが、思うところを書きました。

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結城浩

EngineerWriter

本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など多数。文章を書くこと、学んだり教えたりすること、プログラミング、数学、人と人とのコミュニケーションなどに関心があります。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。アマゾンの著者ページは https://link.hyuki.net/amayuki にあります。なお、私は数学読み物を書いていますが、数学科出身でもありませんし、数学の研究者でもありません。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。〔ゆうき・ひろし〕