川原繁人:これは言語学者にとっても人類にとっても切実な問題です。絶滅の危機にある言語は世界中に多数存在していて、UNESCOが絶滅の可能性がある言語を発表しています。その中には日本で話されている方言も含まれています。詳しくはこちらの資料をご覧ください。
言語の絶滅には色々な要因があります。植民地時代には、単純に列強の諸国によって、多くの言語の話者が殺害され、同時に言語も消滅しました。また生き残った人々も、自分の母語でなく支配者側の言語を話すことを強要されたこともあり、これも言語の消滅を後押ししてしまいました。近年では、政治的・経済的な理由で、英語などのメジャーな言語を好む話者もいます。話者が少数の言語を話していても、仕事につながらない、という理由ですね。確かに、日本に住んでいる人が、日本語でなくアイヌ語だけを話していたら、できる仕事の選択肢は狭まってしまいますからね……。
他に質問の返答でも触れてきましたが、言語学者はすべての言語は人類の財産だと考えています。ですから、絶滅危機言語の記述は我々にとって大事な仕事のひとつです。また、記述するだけでなく、絵本や童謡なども記録して、子どもがその言語を学べるような教材を作っている人も多くいます。アメリカのNational
Science
Foundationでは、絶滅危機言語の研究に研究費を多く補助しています。日本の科学研究費も、絶滅危機方言の記述や保護に取り組む研究に補助を出しています。