佐藤愛:質問者さんがおっしゃる「赤ちゃんのみで生活させる」というのは、栄養面や衛生面、医学的には問題ない状態であり(それらがないとそもそも赤ちゃんは数日も生きられませんので…)、その上で言葉がけしない(発話だけでなく手話やボディランゲージも発しない)状態だと仮定します。
ちょうどこれに近い状態が原因で引き起こされる、身体発育の遅れや障害を形容する言葉があります。「ホスピタリズム」です。ホスピタリズムの赤ちゃんは、施設などにおいて「医学的に管理が行き届いているにもかかわらず、死亡率が高く、また栄養素が整っている食物を与えているにもかかわらず、身体発育が悪いなどが報告された」そうです。
だから、赤ちゃん同士で新たな言語を生み出す前に、健康状態が悪化したり死亡してしまうことが多いと考えられます。
補足になりますが、ホスピタリズムはすべての乳児を預かる施設で起こるわけではありません。ホスピタリズムが現れなかったものとして有名なのが、ハンガリーのローツィ(Lóczy)乳児院の例です。ここでは第二次世界大戦の戦災孤児が育てられていましたが、ホスピタリズムが現れなかったため有名になりました。研究結果から導き出された乳児クラスの少人数担当性は、日本でも導入されています。だからホスピタリズムについては心配せずに保育園に預けることができます。(詳しくはこちらの論文「ハンガリーの保育園と保育事情」(大槻千秋)の203頁にあります。)
ちなみにフランスにはLóczy乳児院の実践に関する研究が多くあり、例えばLóczy ou le maternage
insoliteという本は1973年以来古典となっています。