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ご質問ありがとうございます。

「人生観の軸」といえるかどうかわかりませんけれど、ものすごく大ざっぱな話をするなら、20代まではよくわからず生きていて、20代の中頃にたいへんな時期があり、20代後半くらいから次第に落ち着いてきたという感じでしょうか。もちろんそんなに単純に分けられるものではありませんけれど、細かい年代を分けてもしょうがないので、大ざっぱに。

その切り替わりの時期には、自分の結婚と就職と受洗(クリスチャンになって洗礼を受けること)という出来事がありました。どちらが原因でどちらが結果なのかは何ともいえませんけれど、人生に大きな変化と切り替わりがあったのは確かですね。

人生が楽しい・悪くないというのも思わないではないのですが、ニュアンスとしては「私は生きていてもいいのだ」や「自分は何をすることもできるのだ」という表現の方が近いかもしれません。これまた大ざっぱにまとめれば「私は自由なのだ」という感覚になります。それまで束縛されていたわけではないのですけれど。むしろ、結婚・就職・信仰という、一般的に考えるなら「束縛」と見なされかねない状況に入って「自由」を感じるというのは不思議なものですね。

さて、あなたはここ数年失敗続きでつらい状況におられるのですね。お気持ち、お察しいたします。私も上では「落ち着いてきた」などと書きましたけれど、それは決してつらい状況がなくなったというわけではありません。ものすごくつらいことや、どうしたらいいか途方に暮れるようなこともたくさん(とてもたくさん)ありました。自分がたいへん不安定な状況になることもありました。それは人生観の軸を持つということとはまた別の話のようです。

どうやら人生における課題というのは、その年代や状況に応じてやってくるものであって「これでもう大丈夫」というふうにはなっていないようですね。ただ、経験が増すにつれて、自分自身の理解が深まり、「ヤバい」状況を回避しやすくなったり、うまく「外す」方法を身につけるようになってくるのは確かです。

あなたへの「アドバイス」というほどではないのですが、思うところを少し書いてみます。

まず、現在の状態がずっと続くわけではないというのは覚えておいて損はありません。調子が悪いときや、失敗が続くと、「自分の人生はこのままずっとこういう状態なのか」と考えがちですが、あまり急激に一般化しない方が無難です。

それから、自分の人生を自分で制御する度合いを緩めるというのは一つあります。あなたは「チャレンジするか、おとなしく生きていくか」という判断について考えているようですけれど、まずそのような「二択を立てて決める」ということ自体、すでに一つの方針を暗黙のうちに選んでいることになるとご注目ください。自分で選択肢を立てて、自分の人生を決めていくということが悪いわけではありませんけれど、そのように決めたからといってそうなるとは限らないという意味です。自分で決められる部分と、決められない部分があって、チャレンジしたつもりだけどそうはならなかったり、おとなしくしていたつもりなのにそうはならなかったりしがちです。自分の人生を自分でコントロールしているという感覚を緩めてみる時期があっても悪くはありません。

そして、非常に大事なことですが、一人でずっと考え続けるのはよくありません。非常によくありません。特に、真面目でものごとを突き詰めて考えがちな人は要注意です。人生は謎と神秘に満ちています。人間が把握できることはほんのわずかです。特に未来に関して、そして自分に関してはわからないことだらけです。それにも関わらず、突き詰めて未来と自分のことを考え続けると、気持ちがめいってきておかしな方向に進みがちです。不確定なものから論理的な結論を導こうとするようなものですから。ときには考えることをやめたり、わざといいかげんに進んでみたり、ときには静かに時を過ごしたり、あるいは思い切ってチャレンジしたり……考えるだけではなく、さまざまな活動をした方がいいと思います。できれば、そのときに信頼できる人と話ができたらいいですね。いろんな立場の人と、しょうもない話をするのもいいものです。

人生は、つらいか/たのしいかという二択ではなく、もっとずっと深い味わいを持っているものです。それは10代、20代、30代、40代、50代……の年代でまったく異なる味わいを持ちます。過去に自分が「将来の自分はこういうふうに感じるだろうな」と思っていたことはいろいろありますが、実際にその年代になってみると、意外な驚きがあるものです。80代後半で亡くなった私の母は「その年代にどう感じるかは、その年代になってみなければわからない」とよく言っていたものです。自分が人生で年を重ねるにつれて、母のその言葉は「まったくその通りだな」としみじみと思います。「自分の人生はこうだ」と簡単には決めつけられないともいえるでしょう。

以上、あなたのご質問で私が思うところをお話ししました。何かの参考になればさいわいです。

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結城浩

EngineerWriter

本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など多数。文章を書くこと、学んだり教えたりすること、プログラミング、数学、人と人とのコミュニケーションなどに関心があります。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。アマゾンの著者ページは https://link.hyuki.net/amayuki にあります。なお、私は数学読み物を書いていますが、数学科出身でもありませんし、数学の研究者でもありません。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。〔ゆうき・ひろし〕