Keisuke Fujii:D進するときは、なぜだか全く迷いがなかったです。工学系だったので周りは9割以上就職でしたが、全く気にならなかったです。研究が面白くなってきた時だったし、修士に進学するときからD進はするのは当然だと思っていました。むしろ、周りと違った道を選択していることを楽んでいました。昔から人と同じ道は歩みたくない、というところと自分の好きなことをやりたい、オリジナリティの高いことをやりたい、ということにプライオリティーが高かったので、当時の企業で研究開発をするという選択肢はありませんでした。
博士卒業のときには、さすがに迷いました。すでに結婚もしていたので、このままアカデミックにしがみつくか、企業で全く違うテーマで研究・開発に従事するかという点で。就職活動もやって、量子コンピュータと全く関係ないけど、このテーマだったら内定だすよって段階になって、この内定をうけとったら、量子とは関係ない分野で生きていくんだなーと思って(今その企業は量子コンピュータもやっているので、そのままいたらそこで量子コンピュータを第一線でやってたかもしれないですがw)、お断りして、そのとき就活を全てやめて、アカデミックでやってこうと決心しました。それがあったおかげで、吹っ切れましたね。そのときはD3の春で、秋を過ぎても次のポストがみつからない状況でしたが、全く気にならなかったです(こういうちょっと狂ったところがないと当時の量子分野のアカデミアでは生き残れなかったのかもしれません)。就活を経験せずにアカデミックにしがみついていたら、たぶんいろいろ辛いことがあるたびに後悔してたと思うので、この経験がよかったと思っています。
今では、この分野はポスドクやポストが増えているので風景はだいぶ変わりました。企業やスタートアップでも量子コンピュータの理論やソフトウェア研究ができることが増えているので、博士をとった段階で企業就職、という選択肢があって羨ましです。企業やスタートアップでも大学顔負けの研究や論文書いたりできるので、現時点の量子コンピュータの研究という観点でアカデミアか企業かってのは、思想的な自由や、教育へのコミット、といった側面のファクターが大きい気がしますね。
ちなみに、量子情報に関連する研究で某企業の研究所の採用を受けましたが、落ちたりもしました。当時、量子コンピュータを作るとか、量子誤り訂正とか誤り耐性量子コンピュータとか、量子をやっている研究者でも評価はできない感じだったんだと思います。あと、「実験をやる気はありますか?」と言われて「やれと言われればやりますが、私が実験やるのは効率が悪いので実験の経験がある人を雇用したほうがいいですね。」とバカ正直に言ってしまったのも原因かもしれません(そこまで媚びて採用されたいとは思わなかったです)。その後、私が出世して露出が増えた頃に、その当時採用の責任者の方に「その時はすみませんでした」とご丁寧に謝罪いただきましたが、私は心底そこに就職しなくてよかったなと思っているので恨んだりしてないです。むしろ採用されなかったおかげで今があると感謝しています。