小田部正明 (Masaaki Kotabe):以前、貴方の質問に似ている課題に答えたことがあります。それを下に記し、その後に貴方の質問に直接答えてみます。
***最近の円安の影響でドル建てで考えると日本の労働コストが多少は安くなりましたが、世界レベルで考えると他の先進国と比較して安いとは言えません。現在でも中国とかインドないしはブラジルで半導体生産に必要な高度な労働力が、日本の労働賃金と比べるとはるかに安いのが現状です。日本本土が半導体の「世界の工場ニッポン」になることはないでしょう。日本の企業はメモリーチップのような単純な半導体からロジックチップそしてセンサーチップ(例えばソニーのCybershotデジタルカメラのデジタルイメージを高度にプロセスする頭脳であり、Apple
iPhoneのカメラ機能の頭脳としても採用されている)といった更に付加価値の高いタスクのできる半導体に移動していくべきです。単にメモリーチップをさらに小さくしていく技術だけでは、すでに20年程遅れを取っている日本の企業は韓国のサムソンや台湾のTSMCにはなかなか追いつくことができそうもありません。最近、ソニーが台湾のTSMCと合弁で最先端のメモリーチップを熊本で共同開発、生産することにしたように、世界最先端のTSMCやサムソンとの共同戦略は考えられます。***
つまり、日本企業はコストを考えても技術を考えても半導体のマスプロ産業には再介入することはできないでしょう。日本企業はソニーのようにもっと付加価値の高い半導体のところで力を入れていくべきだと思います。それを可能にするにはメモリーチップ大量生産でトップの企業(TSMCやサムソン等)の日本国内生産を誘致するような政府の政策が必要です。例えば、アメリカはサムソンの大規模な生産拠点の誘致をしています。地の利を利用した集積の経済性を可能にします。