積惟美:ご質問ありがとうございます。会計を考えるうえで,とても面白い論点だと思います。私自身は会計基準を作成する立場ではないため,あくまで個人の私見として解答いたします。
私の知る限りでは,そのような勘定科目に関する会計基準が制定されるということは聞き及んでおりませんが,会計基準は企業活動や取引の形態に応じて変わっていくため,今後そうした基準が生まれる可能性はあると思います。
退職給付会計を参考にすると,そうした基準が整備されるには,下記の大きく2つの条件が必要だと思います(もちろん,突き詰めると他にも細かい条件がいろいろあるとは思いますが,議論の簡略化のためここでは無視します)。すなわち,
(1)企業が将来支払わないといけない金額(例:年金負債)が存在する
(2)そのために”実際に”積み立てられる金額(例:年金資産)が存在する
(1)の条件はそれほど特別なことではありません。やや性質が異なるものもありますが,引当金全般にもいえることです。たとえば,将来資産を除去する際に法令等にもとづいて必要な金額を負債として計上する資産除去債務などがそれに当たります。
退職給付会計を特別たらしめているのは(2)の方だと考えられます。すなわち,年金資産は①企業年金制度に基づき,退職給付に充てるために積み立てられている資産,②厚生年金基金制度および適格退職年金制度において保有する資産,③従業員との契約に基づいて,年金資産と判断されるものがその範囲とされます。簡単に言うと,従業員に支払う給付の財源として生命保険会社等の企業の外部に積み立てられた資産を指します。
すなわち,年金資産のように,将来支払わなければならない金額に充てるために積立られ,かつ現金のような他の資産とは区別して何らかの形の資産として運用されている必要がありますが,そのような積立の必要性のある取引はなかなかないように思います。
したがって,おそらく,将来的にも退職給付会計のように資産と負債の差額が新たな勘定科目としてBS上に計上される取引は生じづらいように私は思います。しかし,ビジネスマンの方々は私なんかが考えつかないような取引の形態をこれまでも生み出しているため,もしかしたらビジネス形態の変化によってそのような会計基準が整備される可能性もあるとは思います。