Yoshiteru NOUTOSHI:確かにマメ科植物のこの運動には就眠という言葉が使われていますね。ご質問のような疑問が出てくるのも頷けます。辞典では、睡眠とは「周期的に繰り返す意識を喪失する生理的な状態」とされているようです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9D%A1%E7%9C%A0
意識という言葉は、ヒトを中心とした動物などを対象として、脳の機能に由来するものとして使うことが多いのではないでしょうか。植物は脳を持ちませんので、その定義における「意識がなくなる」という状態はありませんね。
ヒトの眠りは日周期で起こり、マメ科植物が葉を閉じる運動もまた同様な周期を刻むことから、葉を閉じた様子と相まって「眠りについている」と捉えられたのでしょう。ではこの「周期」というのは何でしょうか。これは地球上のほとんどの生物に備わった概日リズムと呼ばれる仕組みによって生じるものです。太陽の光からDNAを守るために獲得されたものと考えられています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A6%82%E6%97%A5%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/keywords/08/01.html
就眠運動における葉を閉じる仕組みの詳細については東北大学の上田先生らが明らかにされました。葉は基部にある細胞が膨らんだり萎んだりすることで動きますが、その膨らみ具合が細胞内のイオンの量によって決まっています。このイオンを通過させるタンパク質の量が概日リスムで制御されていることから、葉の動きにリズムが発生します。
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2018/07/press20180706-ueda.html
なお、上田先生のインタビュー記事には就眠運動研究の歴史や研究内容が大変わかりやすく書かれています。
http://manabinome.com/archives/3109
植物は昼は光合成のために葉を広げる必要がありますが、概日リズムを利用して夜に葉を閉じるという仕組みを獲得したことに何かメリットはあるのでしょうか?低温などの環境変化や病害抵抗性に関わる遺伝子も概日リズムで制御されていることがわかっていますので、地球で生きるのに有利に働く理由がありそうです。外敵に食べられにくくなったり、葉から抜ける水分が減りにくかったり、マメ科植物の特徴である根粒形成と関わりがあったりするのでしょうか。理由がわかれば大きな発見といえるでしょう。余談ですが、オジギソウの葉が接触によって閉じることは、虫に食べられにくくなることにつながることが、埼玉大学の豊田先生らにより最近明らかにされました。
https://www.saitama-u.ac.jp/topics_archives/2022-1028-1130-16.html
さて、睡眠の定義は意識を周期的に喪失する現象とのことでしたが、wikipediaの意識のページの冒頭には、意識は「自分の今ある状態や周囲の状況などを認識できている状態のこと」とも記されています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%8F%E8%AD%98
意識をそのように捉えた場合、これは植物にも当てはまります。実は植物も外界の環境や生物を認識して応答しているということについては、2022年11月にNHKで放送された超進化論の第1集で詳しく紹介されています。
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/pR42vAL2G6/
https://www.nhk.or.jp/campaign/mirai17/shinkaron_02.html
先に少し触れた例を考慮すると、植物が様々な外界の状態を感知する仕組みも概日リズムと関わることは大いに想像されますね。昼と夜で周囲を認識するレベルが変わりうるという意味では、眠っていると捉える余地はあるのかもしれません。