横田有為:まず、滑りやすさを左右しているのは物質同士が有する摩擦の大小(摩擦係数)です。「摩擦が大きい」場合は「滑りにくく」、「摩擦が小さい」場合は「滑りやすく」なります。
その「摩擦」には、「表面粗さ」と「表面凝着」が影響します。
「表面粗さ」は、表面に凹凸が大きければ、それぞれの凹凸が引っ掛かりあったり、突起部分が変形・破壊されながら移動方向と反対方向の力(摩擦)が加わります。そのため、「表面が粗い」方が、「摩擦が大きい」つまり、「滑りにくい」ことになります。逆に、ダイヤモンドなどの宝石は綺麗に光るように表面が平坦に加工されているため、凹凸がない状態です。したがって、「表面が平坦」で、「摩擦が小さい」ため「滑りやすく」なります。
一方で、ガラスや銅の表面には凹凸があり、特に銅のような「やわらかい」金属は簡単に表面が変形するため、凹凸を生じ易く、その結果「摩擦が大きく」(滑りにくく)なってしまいます。
さらに、「表面凝着」といった物質同士に働く原子的な相互作用があります。親和性の強い原子同士(鉄同士など)では、原子的に吸着しあうことで「摩擦が大きく」なります。表面に電荷が生じ、電子的な相互作用で吸着することもあります。その結果、表面粗さが同じであっても、物質が異なることで摩擦の大小が変わり、滑りやすさが変わります。
氷の場合はより複雑で、氷と物体の間に摩擦熱で溶けた水がサンドイッチされる構造になります。一見、この水が潤滑油のように物体間の摩擦を減らして、滑りやすくするように思えますが、水は潤滑剤としては不適当だと考えられています。そのため、なぜ氷が滑りやすいのか長い間議論の対象でしたが、近年(2019年)にフランスの国立科学センターが、その間に挟まれた水が粘着性を有する「かき氷」のような状態になることで滑りを生み出していることを明らかにしました[1]。
このように物質間の滑りの問題は、現在も世界的な研修対象になるような重要で複雑なテーマであり、今後も更なるメカニズム解明が進んでいくと思われます。
[1]"Nanorheology of Interfacial Water during Ice Gliding", L. Canale, J. Comtet,
A. Niguès, C. Cohen, C. Clanet, A. Siria, and L. Bocquet, Phys. Rev. X 9, 041025
(2019)