小田部正明 (Masaaki Kotabe):現実に、意図的に国を(適切に)衰退させていく戦略をとっている国はないと思います。しかし理論的には考えられます。国の衰退を引き起こす原因は多数考えられるのでしょうが、ここでは主な2つ原因に絞ります。第1に、人口低下による高齢化する社会。第2に、世界レベルで高度化・複雑化する技術環境に後れをとること。
第1の人口低下による社会の高齢化は現在日本が経験していることです。人口を維持するのに最低限必要な人口置換率(女性一人当たりの子供の出生数)が2.1ですから、現在の日本の出生率が1.3程であることを考えると、移民を入れない限り、日本の人口は老齢化減少していきます。現在の社会保障制度は、政府か若い働き盛りの人口からの税金歳入で老化していく人口の保険・生活の保障に歳出していく仕組みです。若い働き盛りの人口が低下し、老化していく人口が増加していくわけですから、若い働き盛りの人口への税の負担が増えていきます。
第2に日本社会の技術レベルが世界レベルでの発展に後れを取れば、企業は世界の企業の競争力に対抗できなくなり、経済成長は衰退していきます。そうすると、相対的にも絶対的にも国民の所得レベルは低下していきます。
そのような環境で、税の負担の増加(ないしは現在の社会保障制度の悪化)と物的生活水準の低下を一般国民が喜んで受け入れてくれれば、安定した国の衰退が可能になるでしょう。現実には、一般の人々は税の負担増加を拒否し、物的生活水準を高めることを希望するので、国の衰退を認めることは政治的に不可能なのではないでしょうか。