Masayuki IMAJOH:私が行っている魚の病気を診断する観点からお答えします。
魚は病気にかかると見た目や遊泳行動に何らかの変化が現れるので、それにきちんと気づいてあげる必要があります。そして、魚が病気になる原因のひとつが感染症です。ヒトや家畜と同じように、残念ながら魚もウイルス、細菌、寄生虫といった病原体に感染してしまいます。魚の病気は見た目の変化にもとづき命名されたものがあり、例えば、観賞魚でよく知られる尾ぐされ病や白点病などはいずれも体に異常が現れる病気です。遊泳行動の異常から転覆病やボケ病といった、世間ではあまり知られていない病気などもあります。
魚に何らかの病気が疑われた場合、次に診断を行います。ですが、ここでヒトや家畜の世界とは大きく違う点があります。病気の診断は基本的に病気にかかった「個体」そのものを診断することにあります。しかし魚の場合には、その個体を含む「集団」に発生している病気を診断することが求められます。個体そのものを治療するのではなく、集団を治療するという考えです。ここに魚病学という学問が、たくさんの数を飼育する養殖魚や観賞魚などの産業魚類を対象とする学問としてこれまで発展してきたという経緯があります。魚病学で扱う病気もヒトのコロナウイルスと同じように、集団で生息する魚の病気をいかに制圧するかを目指しているのです。
魚を飼育する目的は、鑑賞して楽しんだり、大きく育てて食べたりといろいろありますが、いずれにしろ常日頃から魚をよく見ていると思います。つまり、飼育者=かかりつけ医です。魚の病気は一瞬に起きるものではなく、常日頃からの観察が重要ですが、魚を飼育する上で、わざわざそういった意識を特別に持つ必要はないのかもしれませんね。