小田部正明 (Masaaki Kotabe):ビジネスの用語に先発優位性(first-mover
advantage)と言う概念があり、一般に事実かのように思われていますが、実際の研究で間違った概念であることが証明されています。例えば、Appleのスマートフォン、そして一昔前ビデオカセットプレーヤーの世界標準であったSonyのベータマックスとPanasonicのVHS等は、一般に、その分野の先駆者だと思われていますが、実際はその分野の製品としては後発型だったのが事実です。Appleのスマートフォン(iPhone)が普及する8年も前に、実はNTT
DoCoMoがiMode仕様の世界初のモバイル インターネット サービス
プラットフォームを開発しています。DoCoMoは日本では成功しましたが、後発型のApple
iPhoneが世界市場をリードし、あたかも先駆者かのように思われているだけです。同じようにSonyのベータマックスやPanasonicのVHSの前に、オランダのPhilipsが世界で最初のビデオカセットプレーヤー、V2000、を開発しています。しかし先駆者であるPhilipsは,
SonyとPanasonicの後発型ビデオカセットプレーヤーに世界市場を奪われてしまいました。
何故そうなったかが、貴方の質問への答えになります。電気自動車も入れて先駆者商品とは一般に技術ばかりでなく、製品の規格、製造の仕方などがまだ確立・定着していない為、未定数の多い商品です。それらが確立・定着すると、その商品の標準化を進めるために大量生産・大量販売できる体制を立ち上げた会社が結果として成功しています。電気自動車にしても、リチウムイオン電池の許容量の限界も既に見えており、しかもどこまで環境にやさしいものかどうかも怪しく、走行距離も公言されている程良くなく、充電ステーションの存在・配置も今後どのようにしていくかもはっきりしていないので、規格や製造(そして使用)の規格が確立していないので、今後の発展がどうなるかはっきりしていないのが現状です。そのような競争環境の中で、多くの会社が市場シェアの取り合いをしています。製品、製造の規格が統一してきた段階で、はたして現存する先発型の会社(Teslaも含めて)が主流の会社として生き残るかどうかは何とも言えません。過去の事例を見れば、製品規格が安定した段階で、規模の経済性をいかせる後発型の会社が台頭してくる可能性は多くあります。日本の自動車会社は一見後れを取っているように見えますが、日本のトヨタやホンダ等は、世界的に更に環境にやさしく(あまりカーボンフットプリントの残さない)燃料効率の高い燃焼エンジンなりハイブリッド車を更に導入していくことにより、過渡的な自動車技術の中で十分に競争していけると思います。ビジネスの現実として、ガソリン車から電気自動車の生産の仕方が根本的に異なることを考えると、一気に変更しようとすると、とてつもなく特殊な固定投資をしなければならず、コストが掛かりすぎます。EUでも2035年以降、そのような自動車の製造・販売を許可しています。長い時間の間に、電気自動車製造・販売ではの後発型になる日本の自動車会社が規模の経済性を利用して、将来の電気自動車の主流になる可能性はかなり高いと思います。ただし、私は水素車が主流になるかどうかに関しては分かりません。