まず前提として、現状の(少なくとも大多数の国の)法令の内容は自然言語で書かれており、それを司法や行政に携わる人間がそれぞれのケースに照らし合わせて法に沿っているかどうか判断する、という形で運用されていると理解しています。

一方で、自然言語である以上、解釈に幅が生まれやすいことが事故(または恣意的な運用)につながると考え、ヒューマンエラーのリスク低下の目的で形式言語で法令の文章を記述すべきでは?と考えたことがあります。

法令工学というジャンルが比較的この考え方との関連はありそうなのですが、これについて以下の点を伺いたく思います。

  • そもそも法令工学は分野として確立されているのか(= 一定数研究者がいるのか)

  • 形式言語で法令の(または政府や裁判所等の公的な)文書を記述するという試みを実際の運用に落とし込む動きは世界のどこかでありそうか

浅学にして御指摘の「法令工学」については初めて知り、調べてみて大変勉強になりました。

新しい分野であると思いますが、複数の研究者が論文もいくつかお書きになっているようです。ただ、その中身については、法令の作成や運営に情報工学の発想や技術を役立てる、というもののようです。

そのため、自然言語ではない「形式言語で法令文書を記述するという試み」については、少なくとも日本では聞いたことはありませんし、世界に幅を広げてもなかなか前例は乏しいのではないかと思います。

その理由として考えられるのは、少なくとも今のところ法令の宛先は人間、そして多くの場合一般の市民だから、ということです。いくら厳格なルールを作成しても、普通に生活している人々が理解できなければ絵に描いた餅に過ぎず、その適正な運用は期待できません。また、法令を厳格に運用しすぎると、血の通った道理・解決を重んじる人間社会との間で必ず齟齬が生じ、「論理的には正しいが人の道として妥当でない」というケースが出てくるでしょう。前記の情報工学が法令をサポートする、という関係も、そのようなことを念頭に考えられていることではないかと思います。

社会の細分化・専門化が進み、更にはAIも法令にしたがって動く時代が眼前に迫っていますので、御指摘の刑式言語で法令文書を記述するという試みもあってよいと思います(それでもやはり、最後の妥当性判断は人間がする必要があるように思われますが)。

1 year ago

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Past comments by 粟田知穂
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