おサボり企業研究ずかん:非常に興味深い質問だと考えます。いろんな意見があるのですが、私の理解は以下の通りです。理由はただ一つで、利子の存在による停滞した場合お金（＝経済）の価値が下がるためです。 まず、前提としてはお金（＝経済）とはあるもの・サービスを購入するために存在します。ただ、サービス・ものとは基本的に時間と共に購入するために必要なお金が上がる傾向があります。いわゆる、物価があがるという現象です。それは、実はお金ってその中でも大金であるほど時間とともに自然と増える特性があるためです。ほかの言葉でいうと利子という存在が自然と付き、お金は成長するものです。なので、お金が額面が自然と増えるため、それに合わせて物価があるということになります。 上記の前提を踏まえて質問を答えると、企業や国が成長をなぜするか？の話になりますが、上がる物価に対して同じ生活水準を合わせるために成長せざるを得ないためです。すなわち、同じ生活水準を維持するためには、企業も国も成長し続ける必要性があります。 ＊読んでくださった、有識者の中で全世界が利子をなくす状況を作るとしたら、成長の必要性がないという主張をする場合があるかと考えます。ただ、ゲーム理論・融資の必要性・レッドクウィーンeffectの観点からそんな世界はこないと考えます。

小田部正明 (Masaaki Kotabe):抽象的に簡単に答えれば、全てのものは陳腐化します。少なくともその陳腐化する部分を新しいもので置き換えていかなければ、全体の老朽化が進み衰退していきます。何事でも現状維持していく為には、陳腐化していく部分を補えるための最低限の成長が必要です。ここでは現状維持とは新たな成長のない（貴方の言う）「停滞」した状態と定義します。 例えば、日本社会は少子化による人口低下の問題があります。国の人口を維持するために出生率（女性一人当たりの子供の数）が2.1が最低限必要なのは広く知られています。人口を維持するために必要な出生率は人口置換率と呼ばれています。現在の日本の出生率が1.37ですから人口置換率よりもはるかに低く、（移民を入れない限り）徐々に日本の人口は減っていきます。日本人独り一人一人の生産性が人口低下に反比例して成長していけば、国全体のGDPは維持できますが、現実には人は年を取るとともに新しい技術環境の変化にもなかなかついていけず生産性も低下します。つまり、少なくとも若い（新しい技術を持った）人口が増加していかないと国の経済力も衰えていくばかりか国の税収入も減り、政府の税収入に依存する道路交通網の維持、国立大学の運営、社会保障制度等も維持できなくなります。つまり、国の最低限の経済・インフラ維持の為にも、最低限でも置換率にあたる人口増加率は必要です。 基本的に、企業も同じです。売り上げ（利益）が停滞すると、建物、工場、機械、従業員の知識レベルも全て徐々に陳腐化していきますから、そのままでは現状維持する為の新規投資もできなくなります。最低限の新規投資ができないと、競争相手の技術力にも付いていけず、停滞するどころた衰退してしまいます。つまり、企業のリソースを新しいもの換えて行く為には、ある程度の売り上げ（利益）増加が必要です。

菊澤研宗:私は経営学者なので、企業は成長する必要があるのか。ある一定の規模で停滞していても企業は運営できるのではないかという問題に答えたいと思います。 私の考えでは、やはり企業は成長する必要があり、そして一定の規模で停滞すべきではないと思います。 （１）そもそも企業の存在意義や企業の目的について考える必要があると思います。新古典派経済学のように、企業の目的は利益最大化だとすると、ある産業のある企業の利益がプラスである限り、多くの企業が模倣して参入し、最終的にすべての企業の利益がゼロで均衡し、定常状態となり、ある一定の規模で停滞することになります。 （２）しかし、現実の資本主義社会では、このような均衡に至るまえに、必ずどこかでイノベーションが発生し、プラスの利益を生み出す企業が出現します。そして、再び他の企業が模倣してゼロ利益へと均衡していきますが、再びどこかでイノベーションが発生する。このような主張をしたのは、シュンペーターです。そして、ここから、企業の目的はイノベーションであり、顧客の創造だと主張したのがドラッカーです。 （３）このような資本主義社会を考えると、つねに企業は自らを取り巻く環境について考える必要があります。とくに、現在のようなネット社会ではイノベーションが起こりやすく、環境が変化しやすいので、むしろ変化が常態化している状況にあるとさえいえると思います。こうした変化する環境の中で、企業が一定の規模や事業で停滞しているということは企業が退化していることを意味します。そして、時間とともに環境との乖離が大きくなり、やがて環境によって淘汰されることになると思います。 （４）したがって、企業は常に環境に適応するように、変化する必要があると思います。場合によっては、みずからイノベーションを起こして自ら環境を変化させる必要もあると思います。

積惟美:確かに、現状の比較的豊かな日本における生活水準（？）を維持できるならばと考えると、もう経済成長しなくてもいいんじゃないかなと思う気持ちもわかります。しかし，国や企業は成長を止めることは出来ません。これをものやサービスの需要と供給のそれぞれの側面から考えてみます。 まず需要の側面についてですが，これは「経済学の巨人」であるガルブレイズが提唱する「依存効果」で説明できるように思います。ガルブレイズの著作『ゆたかな社会』では，ご質問のようなものやサービスが溢れ，需要が満たされているような社会において，どのようにして消費者に需要が喚起されるのかということを説明しています。そのなかでは，ざっくりいうと，必要に基づく需要が満たされた場合，生産者側（すなわち企業）が広告や宣伝によって授業が作り出されます。これにより歓喜された欲望が生産に依存するいう「依存効果」が豊かな社会において働くとガルブレイズは述べています。つまり，必要が満たされた現代社会でも，企業等のマーケティングによって欲望が作り出されるため，需要がなくなることはないということです。 つぎに，供給の側面を考えます。上記のように需要が生産者側から絶えず作り出されるとするならば，生産者側（企業）が生産・マーケティングを止めてしまえば，成長を止めることができるのではないのか思われます。しかし，企業が成長することを考えず，研究開発・生産・マーケティング等を止めてしまえば，他の成長を諦めない企業にたちまち淘汰され，競争優位がなくなることでその企業の株主や従業員が路頭に迷うことになります。つまり，すべての企業が一斉に成長することを止めれば大丈夫なのですが，それは難しいということですね。 たしかに，経済成長を志向することによって様々な社会問題が生じます。見方を変えれば近年のSDGsやESGというコンセプトは，そうした弊害が起きないように，”企業が一斉に”成長んぼ速度を緩め，社会や環境問題を考えようという取り組みと言えるかもしれません。 上記のガルブレイズ著『ゆたかな社会』は質問者の方の問題意識にある状況にマッチしているかもしれないので，是非読んでみてください。他にも，経済成長を止めることによる弊害について，経済成長率（ｇ）が資本収益率（r)を下回ることによって格差が拡大することを説明したトマ・ピケティ著『21世紀の資本』なんかも参考になるかもしれません。