橋本 省二:「超弦理論はいいけど、大統一理論だけは学んでおいた方がいい」。大学院生のころ先輩にそう言われたことがあります。どちらも実験的に検証されていないという点では同じですが、後者はまだ実験でつかまえられる可能性があるというところが違いますね。それだけではありません。素粒子の標準理論をながめていると、素粒子の構成には偶然とは思えないきまりが隠れている。背後には何かあるに違いない。それは少なくとも理論家には共通認識なんだと思います。
宇宙に存在するすべての電子が同じ電荷をもつのはなぜか。現在の素粒子理論では、電子というのは「電子場」という宇宙全体にひろがる場の一つの励起だと考えます。電子が宇宙にいくつあるのか知りませんが、それらは元をただせば同じものが波打っているだけのことです。だとすればすべて正確に同じ電荷をもっているのも不思議な話でありませんね。
むしろ気になるのは、電子と陽子の電荷が、正負が逆なのはいいけど大きさが正確に同じなのはなぜかという疑問です。偶然ではありえないでしょう。さらに不思議なのは、陽子はクォーク3つでできているということです。クォーク1個の電荷は分数になっている。+2/3
と−1/3
です。電子とは異なる電荷は存在する。ではなぜきっちり割り切れるのか。きっと何かわけがあるはずです。それは大統一理論ではないか。電子もクォークも元々同じ場の一部だったと考えれば納得いきますからね。他にももっと精妙な仕掛けがあります。アノマリー相殺といいますが、説明し始めると長い話になってしまいます。とにかく電子とクォークの間には関係があるのです。
電荷はなぜ整数倍になるのか。それだけならディラックの理論だけでも説明できます。ただしモノポール(磁気単極子)が存在すれば。無矛盾な理論をつくるには電荷はある数の整数倍になっていないといけないことが導かれるのです。決してデタラメな電荷にはならない。
どんどん難しい話になってきました。ついでにもう一つ。大統一理論では必ずモノポールが存在することもわかっています。結局同じところにもどってきてしまいましたね。やはり電荷が整数倍になるのは必然という気がしませんか。そんなこと言ったってモノポールは見つかってないじゃないか、ですって?
その通りです。宇宙初期にあったはずのモノポールはどこに行ったのか。それを説明するのがインフレーション理論ですね。一つの疑問がいろんなところにつながっていく。楽しいと思いませんか。