小林朋道 公立鳥取環境大学 教授 動物行動学 進化心理学:一言で言えば「生命は、非生命の有機物などの食物のエントロピーが増大する過程と並行して、自らのエントロピーを減少させている(食物のエントロピーの増大分と生命のエントロピーの減少分を合計すると、結局は、エントロピーは増大している)」。例えば、今ここに、一人の人間と一個の取り立てのリンゴがあったとします。人間はリンゴを食べ、リンゴを構成している炭水化物やタンパク質などの有機物は消化管内で分解され、さらに血管で運ばれた先の細胞内で無機物までに分解されます。この「分解」が、リンゴの組織のエントロピーの増大になります。いっぽう、細胞は、分解されてできた、小さな有機物や無機物を自らに合うように組み立てて細胞の構造を維持します。つまりエントロピーの増大を抑える、あるいは減少させるわけです。では、「リンゴの組織のエントロピーの増大」と「細胞のエントロピーの減少」を結び付けるものは何かと言う点ですが、それは、エネルギーと言ってもよいと思います。有機物が分解されるときにはエネルギーが生じ、そのエネルギーは、多くの生命体ではATP(アデノシン三リン酸:エネルギーの通貨とも呼ばれる)として蓄えられ、、それを「細胞のエントロピーの減少」に使うのです。ただし、”一人の人間”と”一個のリンゴ”からなる系全体としては、エントロピーは増大しています。量子力学の祖の一人として名高いシュレーディンガー(1887-1961)は、「生物体は負エントロピー
を食べて生きている」という言葉を残しています。