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2つの考え方があります。1つは価値を創造してから獲得するという考え方で、もう1つは価値の獲得の設計を先に行ってからそれに見合った価値創造を構想するというものです。最近注目されているのは後者の考え方で、川上昌直教授が大変説得力のある議論を展開しています。日本の製造業などを振り返ってみると、物販収入というマネタイズを唯一の方法としてそれを前提にして品質だけを高めてきたのですが、そうであるが故に、多様なマネタイズによって成り立つサービスやソリューションに出遅れてしまいました。この意味でも、マネタイズの方法を早い段階から意識しておくことは大切だと私も思います。

注意しなければならないのは、マネタイズの設計ばかりに関心を取られてしまって、価値創造(質問者の言うところの「多くの人に使ってもらう」)が雑になってしまってはならないという点です。顧客が認める価値が提供できなければ、そもそもビジネスとして成り立たないので、価値創造が先にあるべきだとする経営者や起業家も少なくありません。この点については、「儲けたい」と「モテたい」は焦りが禁物な理由に書きましたのでご覧ください。

https://toyokeizai.net/articles/-/319802

総合すると、マネタイズの方法を初期の段階で頭にいくつか描きつつ、しかし価値創造(サービスを多くの人に使ってもらう)こそが肝要として取り組み、利用者が増えてから再度、最適なマネタイズの方法を考えるというのが望ましいということになりそうです。マネタイズが弱くても、利用者が多ければ、大手企業に売却することもできるかもしれませんし、多くの起業家が「利用者が多ければあとはなんとかなるけど、利用者が増えないと打ち手が限られる」と言います。

ただし、利用者を増やすのに必要な資金額の大きさは注意する必要があります。成功している中国のネット系の起業家は、少ない投資で利用者を増やしています。KPIを売上とか利益にせずに、投資対効果(KPIとしての利用者)を追求するという姿勢を持ち続けることが大切だと思います。

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井上達彦 Tatsuhiko Inoue

Scholar

1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授、早稲田大学商学部助教授(大学院商学研究科夜間MBAコース兼務)などを経て、2008年より現職。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センターインキュベーション推進室長などを歴任。専門はビジネスモデルと事業創造。 主要著書 『ゼロからつくるビジネスモデル』東洋経済新報社、2019年 『模倣の経営学-実践プログラム版』日経BP社、2017年 (オリジナル版が中国、台湾、韓国、タイの4つの国と地域で翻訳)