福島真人:より正確に いうと、サンガと在家信者の相互補助のシステムが 完全に確立したと分かっているのはあくまで東南アジア、南アジアの上座仏教社会で、しかもそうした研究が進んだのは、戦後の文化人類学的な仏教実践の現場研究によるものです。専門的に言えば文化人類学系では、M.Spiro(ビルマ仏教)、S.Tambiah(タイ仏教)、そしてもともとパーリ語学者でスリランカで現地調査をしたR.Gombrichといった研究者たちが、実際の仏教実践について詳細に調査した結果、仏教実践といっても僧侶のレベルだけでなく、在家のそれは異なるロジックに従っており、その結果こうした相互補助のシステムが詳細に分かったということです。更にその知見を過去の歴史的事例にも応用して、例えば王権とサンガの相互補助関係を理解するという形で研究が進みました。他方インドの原始仏教についてはそれが歴史的に消滅してしまったこともあり、こうした人類学的アプローチは取れないので、細部に関してはわからない点も多い。 こうした上座仏教の人類学的研究に比べると大乗仏教のそれはより歴史的な研究中心ということになりますが、なんといっても徳川幕府が朱子学をその統治イデオロギーの柱とし、他方民間では荻生徂徠等斬新な古学研究も盛んだったために、儒教的合理主義やあるいは国粋主義まで生まれ、それが巡り巡って維新後の廃仏毀釈等の厳しい仏教攻撃につながったという面があります。ただしそれだけでなく、隣国とは必ずしも同一ではない日本独特のイエ制度、つまりイエという組織形態の存続を第一と考える伝統が、寺院経営にとっても理解しやすいもので、結局そっちに流れていったのではと思います。(Read more)